1989年、リクルート事件で竹下登首相が退陣した。金権政治に対する不信が広がる中、後継には清貧の政治家として伊東正義氏(1913~94年)を推す声が高まった。「本の表紙だけ変えても、中身が変わらなければだめだ」。伊東氏は有名なせりふを残して断った◆固辞した理由は健康問題とされるが、政治評論家の国正武重さんは自民党内の危機意識の薄さにもあったと指摘する。伊東氏は事件の関係者全てが役職を辞すべきと主張したが、反応は鈍かった◆「総理の椅子を蹴飛ばした男」と呼ばれた。毀誉褒貶(きよほうへん)はあるだろうが、気骨を感じさせる政治家はそういない。国政を担う人が総理の椅子を目指すのは当然としても、自らの力を発揮できる立ち位置や果たすべき役割よりも優先させては失敗する◆きょうで就任1年となった菅義偉首相は、その選択を誤ったように思えてならない。伊東氏は「政治家には投手型と捕手型がある。おれは捕手型。総理の柄ではない」と漏らしていた。菅首相も同じ捕手型ではなかったのか。どちらが優れているというわけではなく、人には向き、不向きがある。いまさらではあるが…◆自民党総裁選はあす告示される。トップにふさわしい資質と覚悟を備えた投手型は誰か。次の首相になる人であり、その椅子に座った姿を想像しながら見ている。(知)

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