すごろくの「振り出し」は転じて物事の出発点を意味するが、さいころの目は思い通りにならない。「9・11」。2001年に起きた米中枢同時テロからの20年を思うと、振り出しに戻ったような無力感を拭えない◆テレビに映ったあの日の光景は鮮明に覚えている。ハイジャックされた航空機が世界貿易センタービルに激突した。航空機も、崩壊するビルも模型を見ているかのようで、現実とは思えなかった。一連のテロで、日本人24人を含む2977人が犠牲になった◆米国はテロの首謀者ビンラディン容疑者をかくまったとしてアフガニスタンを攻撃。泥沼の「テロとの戦い」の振り出しだったが、行きつ戻りつの攻防の果てにイスラム主義組織タリバンが復権した◆駐留米軍の撤退で、市民は恐怖政治と貧困から逃れようと出国を急ぐ。タリバンに対抗する過激派組織の自爆テロも起き、情勢は混迷を極めている。人道支援を続けてきた「ペシャワール会」の故中村哲さんの壁画が塗りつぶされたという報道もあった◆タリバンの暫定政権は主要閣僚も決まって始動したが、女性の人権や市民生活は守られるのか。タリバンは現地語で「学生」の意味だという。協調する意義や統治の手法を学んでいることにかすかな望みをつなぎつつ、暴走をさせないように国際社会の目を向け続けたい。(知)

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