政府は新型コロナウイルス感染症の非常事態宣言を19都道府県で延長することを決めた。感染者数は減少に転じたが、医療体制には余裕がなく、現時点では当然の判断だ。この機に長丁場に耐える医療と公衆衛生の体制づくりを急ぎたい。

 個人が行動を見直し、予防原則を徹底して感染を抑えたことは明らかだ。ただ、感染力が強いデルタ株ではワクチンを接種しても感染の恐れがあり、従来株以上に無症状の人からの感染が顕著だとの報告が相次ぐ。感染が収束しても、人にうつさないことを意識した自制が求められる。

 感染の波を繰り返すごとに、ピーク時の感染者数が増えていることに留意したい。昨年4月の最初の緊急事態宣言が決まった頃、1日当たりの感染者数は東京都内で100人前後だった。現在は収束に向かっているとはいえ都内で千人台。それも下げ止まる可能性が高い。大きな数字に慣れてはいけない。

 緊急事態のさなかに行動制限の緩和を議論している政府の動きは時期尚早だろう。医療逼迫(ひっぱく)を繰り返さないよう、次の流行への備えが何より優先される。

 まず、感染の診断と、濃厚接触者の認定を早めることが重要だ。自分が濃厚接触者であることを知らず、無症状のまま日常生活を続ける人たちが感染拡大の起点になる。より多くの接触者を検査して、陽性者には外出自粛を促すのが効果的だ。

 保健所への人的、物的なてこ入れが必須となる。業務は過重で、非正規雇用や他部署の応援でしのいでいるものの、それでも本来業務である接触者追跡が間に合わない。職員の必要人数を精査し、公衆衛生の前線を担うにふさわしい人員と処遇を手当てするべきだ。

 いわゆる野戦病院や酸素ステーション、自宅療養の支援策など病床逼迫への備えは、うまくいった自治体の事例を共有し、施設、資機材を含めて準備したい。自治体と地域の医療関係者との連携が問われる。

 感染の波をより早期に、小規模で終わらせるためには、感染拡大の兆しを早期に捉えて人流を抑える施策も求めたい。

 この1年半、感染者が大幅に増えてからの対策が繰り返され、今回の緊急事態宣言も延長を余儀なくされた。炎上してから火消しに掛かるのではなく、火種を消すことに注力したい。早めに強い対策を打てれば収束も早まり、結果的に経済も回復に向かうだろう。

 政府の感染症対策分科会は、緊急事態宣言を解除する判断材料として医療提供体制や保健所の負荷を重視する新基準をまとめた。そのためには、現場の感染動向を鋭敏にキャッチする必要がある。司令塔となる組織の新設も検討してほしい。

 2008年に厚生労働省研究班が提言した「健康危機管理庁」が一案だ。省庁横断的な組織を常設し、検疫当局や自治体、保健所などを結んで情報を吸い上げ、分析する。新たなコロナ変異株や新型インフルエンザなど将来のパンデミックへの備えにもなる。

 自民党総裁選から次なる衆院選に向け政治日程が立て込むが、課題山積のコロナ対策で政治空白は許されない。菅義偉首相の「コロナ対策に専念」が真実なら、早々に国会開会に応じ、党派を超えた議論を始めるべきだ。コロナ対策を政争の具にしてはならない。(共同通信・由藤庸二郎)

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