「奄美大島、徳之島、沖縄島北部および西表島」(鹿児島、沖縄)の世界自然遺産、「北海道・北東北の縄文遺跡群」(北海道、青森、岩手、秋田)の世界文化遺産への登録が国連教育科学文化機関(ユネスコ)世界遺産委員会で相次いで決まった。これで国内の世界遺産は自然5、文化20の計25件となる。

 遺産を抱える地域では、観光アピールになるとの期待が大きい。だが、急激な観光客の増加によって、自然が破壊されたり、住民の生活に悪影響を与えたりとさまざまな副作用がある。観光活用だけに目を奪われるのではなく、環境や地域への配慮も不可欠だ。

 今回、自然遺産に決まった奄美大島ではアマミノクロウサギ、沖縄島北部ではヤンバルクイナ、西表島ではイリオモテヤマネコなど貴重な野生動物の交通事故被害の増加が懸念されている。特に登録直後は観光客の急増に伴って、観光バスや利用されるレンタカーの数が増えるからだ。

 このため、レンタカー数の制限、事故の恐れがある道路では車の速度を抑えるよう運転者に指導し、注意を呼び掛ける標識を設置することが大切だ。自然環境が特に脆弱(ぜいじゃく)な西表島などには、受け入れられる観光客数の上限を設定し、影響を監視するよう求めたい。

 同じ自然遺産の「知床」(北海道)では、ヒグマの活動期に知床五湖を訪れる際には、ヒグマとの遭遇回避もあって、登録引率者によるガイドツアーに参加することが義務付けられている。このような方法で、遺産地域内に入る観光客数を制限するとともに、ガイドという仕事を地域に導入することを観光との両立策として検討すべきだ。

 自然遺産の「屋久島」(鹿児島)では当初、目玉である縄文杉に観光客が集中し、杉が枯れないか心配された。このため根を踏まないようデッキや登山道の整備などが進められた。特定の場所に人が集中することを避ける工夫も重要である。

 奄美大島では、アマミノクロウサギを守るため外来種のマングースは捕獲され根絶したとみられるが、野生化した猫や犬が脅威だ。他の地域でも、人が飼っていたペットによる影響が報告されている。住民は最後まで飼育に責任を持ち、捨てないようにすべきだ。猫などの捕獲もさらに強化すべきだろう。

 文化遺産でも、許容量を超える人が押し寄せる「オーバーツーリズム」は問題だ。イタリアのベネチアでは大型クルーズ船による景観の破壊や観光客の混雑が問題となり、この遺産委員会でも「危機遺産」に指定するかが議論されたほどだ。

 国内の「白川郷・五箇山の合掌造り集落」(岐阜、富山)では、空き地への無断駐車、騒音やごみ捨てのトラブルが発生、京都でも電車や路線バスの混雑が問題化し「観光公害」と呼ばれた時期があった。

 新型コロナウイルス感染症の流行で人の移動が制限されている間に、観光と生活との両立策を地域で検討し、持続可能な観光地づくりの計画を立てるよう提案する。

 一方、今回、登録が決まった縄文遺跡群は4道県の17カ所で構成される。このように複数の自治体に広がる遺産では、公共交通機関を使い短時間で全てを回るのは難しい。複数の場所を効率的に回れるような交通の工夫を待ちたい。(共同通信・諏訪雄三)

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