土砂災害特別警戒区域に指定されている施設の裏山を視察する専門家たち=嬉野市の済昭園

 佐賀県は災害発生時に福祉施設の職員や入所者が適切な避難行動を取ることができるように「災害対応力向上事業」に取り組んでいる。2019年の佐賀豪雨を踏まえ、21年度に福祉施設の防災力の実効性を高める狙いで約1200万円の新規予算を組んだ。避難計画作成や避難訓練に、防災専門家の視点を加えるという全国的にも珍しい取り組みもある。激甚化する自然災害に対応できるのか、今後の進ちょくに注目したい。

 事業は研修会の実施、防災専門家の派遣、防災備蓄品購入の補助金を一つのパッケージにし、福祉施設のニーズに応えようというもの。研修会は災害時の行動を時系列でまとめる「避難タイムライン」の作成を目的に、5月からオンラインセミナーを開いている。タイムラインは、何ページもあるマニュアルを1枚のシートにまとめ、避難レベルに合わせた行動内容を施設長から介護士に至るまで分かりやすく明記する。

 7月は県内8施設に防災専門家を派遣し、視察と意見交換を実施した。嬉野市の特別養護老人ホーム済昭園では、職員と専門家が活発に意見を交わした。分かったことは避難指示を出す側と、受ける側の意識のギャップだ。ここ数年、行政は「空振りを恐れず避難指示を出す」とし、メディアも連動して避難を呼び掛ける。しかし施設側は「動かすだけでもリスクのある人がたくさんいることを理解してほしい」と訴える。これには専門家といえども「臨機応変な対応を」としか答えられない。

 時間と人手をかければ避難はできる。ただし吸引器や酸素吸入器を付けている人を動かすことは、それだけで生命の危機にひんする。認知症の人は、環境が変わるだけでパニックになる。福祉施設がイメージする災害対応力とは、入所者の実情に沿った避難指示でありタイムラインだ。専門家との意見交換の後、済昭園のスタッフは「行政からの指示は理解できても、受け入れがたい場合もある。あえて避難しないという選択肢もあるのでは」と話した。

 専門家と意見を交わした施設は、9月から12月にかけて避難訓練を実施する。通常の訓練とは異なり、地域住民や地元消防団が参加する施設もある。ここでも専門家が訪れてアドバイスを送り、より実効性の高いものにレベルを上げていく。施設側が納得できる内容になることを期待したい。佐賀県福祉課は「施設の実情は理解した上で本事業を進めている。タイムラインなど備えができたら、訓練を通してチェックと見直しを続けてほしい」としている。

 災害の激甚化で、対策作りは年々ハードルが上がっていく。施設が抱える課題を踏まえた実効性のある避難計画作成のため、さらなる支援と仕組みが必要だ。(澤登滋)

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