東京五輪の開会式の会場になるオリンピックスタジアム(新国立競技場)。聖火ランナーのユニホームを着た男性を海外メデイアが取材していた=22日、東京都内

感染防止協力店を示す「虹ステッカー」を確認する田中さん=東京・三軒茶屋のサンタワーズA

 地下鉄の階段を上って地上に出ると、目の前にオリンピックスタジアムがあった。新宿と渋谷の区境にある国立競技場駅。マスク姿の通行人が汗を拭いながら時折、高さ約3メートルのフェンス越しにスタジアムを撮影している。新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急事態宣言下、23日に開幕する東京五輪。直前になっても祝祭ムードが高まらず、不自由さが付きまとう都を歩いた。(山口貴由)

 焼け付くような日差しの中、スタジアム周辺ではセミの鳴き声が響いていた。施設には関係者以外は近づけない。フェンスに沿って歩くと、交差点など交通規制のポイントごとに警察官が配置されていた。「関係者以外立ち入り禁止」の警告文があちこちにある。

 無観客となり、外国人観光客の姿は見られない。22日は、首から専用パスをぶら提げた「関係者」たちとすれ違った。耳に入ってくる日本語以外の言語が「スポーツの祭典」の断片のように思えてくる。

 スタジアムを背景に友人と写真を撮っていた50代女性は「せっかく東京に来たんやから記念にね。このご時世やから、どこから来たかは秘密です」。関西弁で続けた。「ここに来て言うのもなんですけど、ワクチンいつ打てるかの方が気になります」

 マスクを着けた制服姿の高校生、ベビーカーを押す夫婦、サイクリング中の家族―。スタジアムから遠ざかるにつれ、五輪の雰囲気は薄れ、「コロナ禍の日常」にのみ込まれていく。五輪のロゴより、「感染防止協力店」を認証する「虹ステッカー」や休業を知らせる店頭の張り紙が目につく。

 スタジアムにほど近いコーヒーショップの20代男性は「五輪が始まる感じは全然しない。本当なら、いろんな国の観光客でごった返しているんでしょうけど」。自国開催の実感はない。

 20日、世田谷区三軒茶屋のビル内。小城市出身の田中みなみさん(34)は、翌日に開店する料理店の準備に追われていた。緊急事態宣言下での開店で、営業時間や酒の提供は制限を強いられている。予定していたオープンイベントは延期した。

 「五輪が始まったらテレビで見て、応援もすると思う」。別の関心事もある。「五輪後に東京や日本の感染状況がどうなっているかが気掛かりです」。店の皿は有田焼。佐賀県の酒も準備した。「うちは煮物やサラダなどおばんざい中心の店なので、お酒を出せないと厳しい。人通りが戻り、普通にお店をやれるようになってほしい」

 「人類が新型コロナに打ち勝った証し」。菅義偉首相が開催の大義として使っていたこの言い回しは、いつの間にか聞かなくなった。東京都は22日、新たな新型コロナ感染者数は1979人と発表した。

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