虹の松原の事故で亡くなった当時小学5年の川﨑辿皇君。写真は小学3年生の頃(明日香さん提供)

「そばにいられたら」と明日香さんが作家に依頼した辿皇君とヒマワリの絵(提供)

事故現場にはヒマワリのかざぐるまや飲み物が手向けられていた=唐津市の虹の松原

 唐津市の虹の松原内の県道で2019年7月に、マツと車が衝突して当時小学5年の川﨑辿皇(てんこう)君が亡くなった事故から2年になる。母親の明日香さん(39)はSNSをきっかけに、事故や辿皇君に心を寄せる多くの人と出会った。道路の安全管理や再発防止策を求める署名活動への協力も受け「ものすごく支えられている。事故が忘れられていくのが一番悲しい」と話す。

母親「多くの人が支援」

 明日香さんは長女が他県の高校へ進学したのを機に、昨年から県外に引っ越した。「てん君を奪われて、少しでも娘と一緒にいたいと感じた」。地元では根も葉もないうわさが耳に入り、居心地の悪さも感じていたという。

 「てん君をそばで感じられるように」。そう思い、SNSで見つけた東京の動画クリエーター小野裕人さんに辿皇君の絵を依頼した。明るかった辿皇君と大輪のヒマワリが描かれている。小野さんは、動画投稿サイト「ユーチューブ」で事故のことや絵の制作過程を配信した。直接自宅に訪れ、3回忌にはメッセージを添えた花が贈られた。

 明日香さんは昨年夏から、樹木医が倒木の恐れを指摘したマツの伐採や安全管理などを求める署名活動をしている。配信動画を見た人からは「力になれれば」と署名に協力してもらったり、ヒマワリの花が贈られたりした。「世の中捨てたもんじゃないと思えた。本当にありがたい」。署名は現在、全国から2400筆以上が集まっている。

 車に衝突したマツは事故の6年半前、県唐津土木事務所から伐採の申請が出されていたが、市教委が不許可としていた。「そのときに伐採されていれば、息子が奪われることはなかった。安全管理がずさんで、あきれてしまった」とやりきれない思いを口にする。

 目の前でわが子を亡くした事故の光景を思い出すと、今も涙がこみ上げる。辿皇君に突き刺さったマツ、数時間も抜けずにようやく対面した息子の姿。明日香さんは行政側に対し「真剣に人の命と向き合ってほしい。変わらなければ、また同じような事故を繰り返してしまう」と訴える。(横田千晶)

 

「マツは文化財」唐津市は伐採慎重 目視だけ…安全対策見いだせず

 唐津市の県道・虹の松原線を管理する県と、伐採の申請に許可を出す唐津市は「文化財としてマツを守る立場でもある」とマツの伐採に対しては慎重だ。県による点検は委託業者の目視だけの確認にとどまっており、有効な安全対策は見いだせていない。

 国の特別名勝に指定されている虹の松原。マツを伐採するには、通行の安全に支障が出ると判断した場合でも文化財保護法に基づき、道路を管理する県が市教育委員会に申請し、許可を取る必要がある。

 事故で倒れたマツは県道上空を横切っており、2012年12月に県は「自重による倒木の恐れがあり、放置すれば重大な事故が発生する恐れがある」と伐採を申請。市教委は不許可とした。その後、県はそのマツの伐採を申請していない。

 市教委は県道上空のマツについて「車の通行を妨げる範囲」として、高さ4メートル以内で横切るマツだけを伐採するルールを決めている。4メートル以上でも倒れかかったり傾いたりしたマツは現地確認して許可を出している。市教委は「道路上を幹が横断しているだけで伐採を許可したことは、これまでなかった」と説明する。

 県は昨年度、安全対策としてマツの変状をカメラで記録する方法を検討したが、変状を捉える精度がなく断念した。現在は強風時の通行止めや県が委託した建設会社が週2回、歩行で巡視するにとどまっている。

 虹の松原で調査した樹木医の三宮洋さん(55)=北九州市=は「幹の空洞が倒れる原因になることもあり、目視では分からない場合がある」と指摘。安全管理に関し「一般的に道路上を横切る街路樹はあり得ない。定期的に専門知識のある樹木医が調べるなど、それぐらいやらないと安全性は確保できない」と警鐘を鳴らす。(横田千晶)

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