さりげなく、あたたかで、それでいて確かな言葉が胸を打つ。詩人で書家の相田みつを(1924~91年)の没後30年を記念する大規模な回顧展が、きょう佐賀で開幕する。

 相田みつをが今、再び脚光を浴びている。例えば、ビジネス誌「プレジデント」が、発売中の7月16日号で「再ブーム! なぜ、『相田みつを』は日本人の心に迫るのか」と題して特集を組んでいる。阪神・淡路大震災、東日本大震災、そして現在のコロナ禍と、「日本に災禍が起きるたびに相田みつをの言葉が求められてきた」という指摘である。

 95年の阪神・淡路大震災では、最も被害がひどかった神戸市長田区の菅原市場で、すでに4年前に亡くなっていた相田みつをの詩が掲げられたという。

 「うばい合えば足らぬ/分け合えばあまる」-。それから16年後の東日本大震災でも、やはり同じ作品がネット空間を飛び交った。いずれの震災でも、壊滅的な被害に見舞われたにもかかわらず、被災者は整然と行動してみせたし、多くのボランティアが被災地へと向かった。分かち合おうと呼び掛けるみつをの詩を胸に、窮状に耐え続けた被災者も少なくなかったに違いない。

 そして、この世界を覆うコロナ禍である。ようやくワクチン接種が広がり始めたとはいえ、第5波の兆しにおびえ、依然として自粛ムードが続く。本来であれば、日本中が沸き立ち、復興五輪として世界にPRする場となるはずだった東京五輪・パラリンピックにしても、開催そのものへの不安が拭えないままだ。

 そうした中で開かれる今回の展覧会「没後30年 相田みつを全貌展~みつをが遺したもの」(佐賀県立美術館)は、私たちにとって自らの足元を見つめ、未来へと視線を上げる機会になるだろう。

 「道」と題した作品がある。

 「長い人生にはなあ/どんなに避けようとしても/どうしても通らなければ/ならぬ道というものがあるんだな」から始まる。愚痴をこぼさず、ひたすら黙って歩くよう諭しつつ、「そしてなあ/そのときなんだよ/人間としての/いのちの根が/ふかくなるのは」と締めくくる。

 現在の社会状況と重ね合わせると、いつまでも立ちすくんでばかりはいられないのだと思わせてくれる。ただただ足元を見つめながら、それぞれに今できる一歩を踏み出そうと語りかけてくるようだ。

 今回の全貌展は、東京の相田みつを美術館が収蔵している代表作を、そっくり佐賀に移して公開する趣向だという。そこで、「しあわせは/いつも/じぶんの/こころが/きめる」や、「にんげんだもの」などの代表作を、居ながらにして直接鑑賞できる貴重な機会だ。これまでは館外に持ち出されることがなかった作品が、東京五輪に伴う休館で初めて貸し出されたのだという。「全貌展」の名にふさわしい展示内容と言えるだろう。

 “いのちの詩人”と呼ばれる相田は、その独特のたどたどしい書体と、そっと背中を押してくれるような言葉が私たちを励ましてきた。全貌展の会場に足を運べば、コロナ禍を生きる私たちの支えになる言葉が見つかるに違いない。(古賀史生)

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