呼子の朝市で全国にその名を知られる唐津市呼子町と加部島をつなぐ「呼子大橋」。海や空の鮮やかな青色をバックに、2本の柱から17段のケーブルが伸びる姿は、弦楽器のハープを並べたような優美さがある。島民の暮らしを大きく変え、佐賀県を代表する観光スポットの一つにもなっている。

唐津市呼子町と同町の加部島(奥)を結ぶ呼子大橋。長さが728メートルで、呼子側入り口が大きくカーブしている(小型無人機ドローンで撮影)

 「橋ができて本当に便利になった。初めは救急車を呼ぶのが気恥ずかしいような、そんな思いもあった」。加部島の区長、金丸和則さん(68)はこう懐かしむ。開通したのは32年前の1989(平成元)年4月。それまで本土から島へのアクセスは1時間1本の定期船のみ。島で急病人が出れば漁船に頼るしかなかった。

 当時の区長が国会議員らに橋が必要であることを陳情活動で訴え続け、「農道」としての建設が決まった。完成までに7年、総工費約42億円が投じられた。開通式典には約400人が参加し、島民は特産の甘夏を載せたトラックを先頭に渡り初めした。佐賀牛を積んだトラックや耕運機もパレードし、“農業の町”としての船出を祝った。

 人や車の往来に加え、この橋を語る上で欠かせないのは水利の役割だ。全長728メートルに及ぶ橋の中にはパイプが通っており、島の農地に松浦川の水を供給している。それまで島の農業は甘夏や葉タバコ栽培が中心だったが、水の供給と土地改良事業により、タマネギやイチゴなどを栽培する農家が増えた。当時30代だった金丸さんは、名古屋市での仕事を辞めてUターンし、イチゴ栽培を始めた。「(飲料水と同じように)蛇口をひねれば農業用水が出てくるので助かった。橋がかかっとらんなら、島には戻らんやったろうね」と語る。

 ただ、30年以上の時を経て変化も生じてきている。少子高齢化の波が押し寄せ、島の人口は現在422人。イチゴ農家は橋の開通当初と比べると、半数にまで減っているという。「あと10年もすれば土地が荒れてしまうかもしれない。寂しかですね」と金丸さん。

 橋の中央付近から呼子町側の海を見下ろすと、小さな弁天島が浮かぶ。ここには海上の神様をまつる厳島神社があり、地元では「弁天さん」と親しまれている。毎年7月には神事を行い、地元漁師らが手を合わせる。神社と重ならずに曲線を描いて造られた大橋は、美しい造形とともに島民らを見守り続けている。

(文・横田千晶、写真・鶴澤弘樹=佐賀新聞社)

グルメ観光スポット 直売所「甘夏かあちゃん」

=唐津市呼子町加部島=

加部島でとれた甘夏の果汁をふんだんに使った呼子夢甘夏ゼリー

 加部島の「甘夏かあちゃん」は、甘夏ミカン農家の山口めぐみさん(66)が運営する直売所だ。一番人気は地元の甘夏を使った「呼子夢甘夏ゼリー」。保存料や着色料を一切使わず、爽やかな香りとさっぱりとした味わいが楽しめる。

 橋開通2年後の1991(平成3)年、女性3人のグループ「島ホリおこしかあちゃん」を立ち上げ、デザートの開発を始めた。規格外品の甘夏の実を生かそうとケーキ店の協力を得て、甘夏の酸味と糖度のバランスを試行錯誤した。

 甘夏の果肉をくりぬいた皮に、季節ごとに変化のある果汁をふんだんに使ったゼリーが注がれる。山口さんは「一番大切にしたのは甘夏らしさとゼリーのぷるぷる感」と語る。地元の旅館のほか、有名ホテルなどでも食後のデザートとして提供されている。

 ゼリーは1個280円から。果実や甘夏カレー、アイスも販売している。火曜定休。問い合わせは電話0955(82)2920。

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