片手でも運転しやすいように取り付けている「ハンドルグリップ」

 2015年9月に小城市内の病院を退院した後、「私」は比較的時間に融通が利く姉を頼り、通院などで送迎してもらった。ただ、不要不急の外出で送迎を頼むのは気が引けた。

 「車を運転したい」。ロボットリハビリでお世話になっていた佐賀市の佐賀大医学部附属病院に相談し、神経内科を受診した。

 この際、当時佐賀大医学部教授だった堀川悦夫さんにお世話になった。ゲーム機のような運転シミュレーターを受けた後、堀川さんに勧められ、佐賀市久保泉町の佐賀自動車教習所で実車教習を受けた。

 私は左麻痺(まひ)なので、右手右足の自由は利き、ブレーキとアクセル操作に支障はない。問題はハンドルさばき。90度以上のカーブは片手ハンドルでは不安が募る。そこで、ドアノブのような形をした「ハンドルグリップ」を堀川さんが用意してくれた。ハンドルに簡単に着脱できるため、教習車に取り付けて早速運転。脳出血で倒れて以来、約1年4カ月ぶりの実車だった。指導官についてもらい、仮免許の試験コースを2回走行し、道路にも出た。大きな問題はなかったようで、指導官からは「初心者に戻った気持ちを忘れないで」と助言を受けた。

 そんな過程を経て、「今後5年程度であれば発作の恐れの観点からは、運転をさしひかえるべきとはいえない」という診断書を書いてもらった。県運転免許センターにその診断書を提出し、アクセルとブレーキ動作の確認後、「オートマ車限定」となった運転免許証を受け取った。

 5年後に再度、医師の診断書提出が必要といわれたが、これで運転をとがめられることはなくなった。運転免許証は移動手段が確保できたこと以上に、社会の一員という一つのシンボルのように思える。高齢者が返納したくない気持ちがよく分かった。

 運転を再開するには車の改造も必要だった。私は右手右足は使えるため、左手で操作するワイパーを右手で操作できるようにするなどいくつかの改修で済んだ。右半身麻痺の場合はアクセル、ブレーキを左足用にするなど大がかりな改造になる。助成制度があるので利用したい。

 私は今、健常な頃以上に慎重に運転している。もし大きな事故を起こしたら、「脳疾患障害者になぜ運転させるのか」といった声が起きないとも限らないから。そんな社会ではないと思ってはいるが…。(佐賀新聞社・論説委員)

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