新型コロナウイルス感染症の防止策や東京五輪・パラリンピックの開催懸念を巡る論議は尽くされたと判断したのか。課題が山積しているにもかかわらず、国会質疑を打ち切る政府、与党の姿勢は決して容認できない。

 菅義偉首相が初めて臨んだ通常国会は16日に会期末を迎える。野党はコロナ禍に対応するため3カ月の会期延長を与党に申し入れた。五輪・パラリンピックは9月5日まで行われ、人の流れの増加でコロナ感染拡大の恐れが長期間に及ぶためだ。

 だが自民、公明両党は「政府提出法案がほとんど成立している」などとして野党の要求を拒否した。受け入れがたい理由である。

 立憲民主党など野党4党は「国民の命と暮らしを守る責任感、使命感を全く示さない」として菅内閣の不信任決議案を衆院に提出したが、否決された。与党は残る政府提出法案の成立を待って国会を閉会する方針だ。国会は内閣が望む法律の制定だけが役割ではあるまい。中央省庁の施策を補うための議員提出法案を審議し、行政機関の政策遂行を監視するのも重要な責務だろう。

 ましてやコロナ収束に確たる見通しがない中、五輪開幕を来月に控えた国会である。新規感染者数は減少傾向にあるものの、感染力が高いインド株流行による「第5波」到来が危ぶまれている。

 菅首相は先進7カ国首脳会議(G7サミット)で五輪開催支持を取り付けたが、国際公約になった「安心、安全な大会」にするために欠かせない観客数はまだ示されていない。

 政府のコロナ感染症対策分科会の尾身茂会長は「強い対策を打たなければ、必ず医療の逼迫(ひっぱく)が起きる」と警告。五輪のリスク軽減策を提言することにしている。この提言を踏まえ、どのような対策を取るのかを国会で説明し、質疑を受けるべきではなかったか。その論議を通じてこそ、国民の理解と協力が得られたはずだ。

 今国会中には自民党に所属していた衆参両院の議員3人が「政治とカネ」問題に絡んで辞職。菅首相の長男が勤める放送事業会社による総務省官僚の違法接待も発覚した。政治、行政への信頼を回復したいのであれば、菅首相自身が納得いく説明をすべきであり、その場は国会でしかない。

 森友学園問題では国有地売却に関する決裁文書の改ざんを強いられた財務省近畿財務局の元職員が自殺した。元職員が経緯をまとめた「赤木ファイル」を、国が近く関連の裁判に提出することになっている。国会を閉会するのは、東京都議選や衆院選に向け、菅首相が追及されかねない論戦を回避するためではないかとの疑念が湧く。

 LGBTなど性的少数者への理解増進を図る法案は超党派で議員立法を目指していたが、自民党内の反発と会期切れが迫っていたことから提出が見送られた。差別を禁じる五輪憲章にも沿う内容であり、閉会優先と批判されてもやむを得まい。

 憲法53条は、衆参両院のいずれか4分の1以上の議員の要求があれば、内閣が臨時国会の召集を決定しなければならないと定める。野党はこの規定に基づき臨時国会召集を求めるべきだ。安倍前内閣は4年前、召集要求を事実上放置したが、菅首相が同様の対応を取れば国会軽視との批判はもはや免れないだろう。(共同通信・鈴木博之)

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