作家の村上春樹さんは長い信号待ちの間、車内で歯を磨くという。いつも歯ブラシを持っていて、歯磨き粉をつけず、水も使わず、ゆっくり隅々まで磨く。「馴(な)れるまでに少し時間がかかるけど、いったんできるようになると、いつでもどこでも簡単に歯磨きができるので、とても便利」とエッセーに書いている◆自分の歯でかんで食べる。当たり前のようでとてもありがたい。かむことで唾液が出て、虫歯予防に加え、肥満防止にもつながる。だが、かめるありがたさを忘れ、急いで食べてしまう◆村上さんに触発され、歯磨き粉なしで歯を磨いてみた。なるほど、よく磨けた気がする。歯磨き粉をつけることで「磨いたつもり」で終わっていたようだ◆そういえば、かかりつけの皮膚科の先生が先日、「お湯だけ洗髪がいい」と言っていた。健康な頭皮にはバリア機能があるため、シャンプーを使わなくても大丈夫らしい◆もちろん、歯磨き粉やシャンプーの効能を否定するわけではない。ただ、それに頼りすぎず、唾液や頭皮など私たちの体に備わる機能を生かすことや、体への感謝が大切と思うのである。10日まで「歯と口の健康週間」。よくかんでおいしく食べた後、「いつもありがとう」と思って歯を磨く。そうすれば、80歳で自分の歯を20本以上保つ「8020」も夢ではないだろう。(義)

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