特許は大切な知的財産である。直木賞受賞作『下町ロケット』(池井戸潤著)は、中小企業が地道な研究を続けて取得したバルブの特許によって物語が展開していく◆宇宙ロケットを製造している大手企業はバルブの開発が難航し、中小企業に特許権の売却を持ちかける。売れば大きな収益になるのだが、中小企業の社長は売らずに、部品供給でロケット事業に参画して夢をかなえる◆成功するかどうかも分からないのに、研究に情熱を注ぎ、時間と資金を費やして取得した特許を簡単には手放せない。それは理解しながらも、何か手だてはないだろうか。そんな思いにかられるのが新型コロナウイルスのワクチンである◆感染拡大で苦境に立つインドなどは、世界の人口の大半がワクチン接種を受けるまで特許権の一時停止を求めている。一方、特許権を持つ側にすれば、開発費の回収もままならなくなる。仮に開放したとして、同じ品質の製品を造れるのかという指摘もある◆妙案を見いだせない中、日本は共同出資・購入して途上国にワクチンを行き渡らせる国際枠組みへの協力姿勢を打ち出している。自国だけの収束では終わらないのがウイルスの怖さである。ワクチン格差を「命の格差」にしたくはない。知恵と力の結集で人を幸せにする、下町ロケットのような成功の物語を見たい。(知)

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