香港立法会(議会)は「愛国者による香港統治」のため民主派を排除する選挙制度見直し条例案を可決した。中国政府が昨年来、強引に進めてきた香港への統制強化の総仕上げであり、香港の「一国二制度」「高度の自治」は完全に崩壊した。

 中国は香港の民主化要求や反中意識の高まりを、香港独立や中国政権の転覆を狙う米国など西側の陰謀と決め付け、確信的に香港の民主派弾圧と政治の中国化を進めた。

 1997年、中国は英植民地、香港の返還を受けた際、一国二制度を国際公約した。これをほごにした暴挙は容認できない。国際社会は「自由と民主」を求める香港の人々の側に立ち、中国に弾圧停止と民主化を促していきたい。中国は批判に耳を傾け、人権について対話に応じるべきだ。

 民主派が政府に抗議して集団辞職し親中派が多数を占める立法会(定数70)は条例案を賛成40、反対2で可決、今月末から施行される。12月の立法会選挙(新定数90)と来年3月の行政長官選挙は新制度で行われ、親中派だけの議会が発足し、中国寄りの林鄭月娥・行政長官再選は確実だ。

 今年9月には行政長官を間接的に選ぶ委員会(1500人)の選挙も実施して親中派を増やす。新制度により各選挙の立候補者の「香港への忠誠」を事前に調査する資格審査委員会を新設し、民主派をふるい落とす。

 新制度では、迎合し権力への監視機能を全く持たない議会と、中国に服従する行政トップしか生まれない。香港基本法(憲法に相当)には一国二制度や普通選挙制導入など民主化の道筋が盛り込まれていた。返還から24年、その理念は骨抜きとなった。

 統制強化の引き金となったのは、19年に香港で起きた大規模な民主化要求・反中デモだった。危機感を強めた中国は昨年6月、香港国家安全維持法を制定して、デモを組織した著名な民主派の摘発に着手。今年3月、中国の全国人民代表大会(国会)は選挙制度見直しを決定した。

 ブリンケン米国務長官は制度変更を「香港の民主主義制度をむしばむ」と厳しく指弾。日本を含む先進7カ国(G7)外相も5月初め、中国による新疆ウイグル自治区の人権侵害などと合わせ「香港選挙制度の民主的要素を損なう決定」に「重大な懸念」を示した。だが、中国は「香港は中国の一部、内政干渉は認めない」との立場だ。

 香港や新疆などの人権問題について、中国と国際社会の主張の隔たりは大きい。共産党独裁体制の堅持を最重要課題とする中国は、国民の政権批判を許さず、個人の自由より国の発展や国内の安定維持に重きを置く。言論や集会の自由を認め、選挙で国民が議会や政権を選ぶ西側の民主主義とは全く異なる。

 中国を説得するのは容易ではないが、国の繁栄と国民の幸福を目指す政府の目標は同じはずだ。国際社会は長期的取り組みに向け、率直かつ冷静な人権対話の枠組みを設ける必要があろう。

 香港の世論を力でねじ伏せても長期の安定は得られない。強引な手法は米国や同盟国の対中包囲網を固め、中国の国益を損なう。中国が新興大国として国際社会の信頼を得たいなら、経済発展のほか国際協調や政治の民主化が不可欠だ。こうした点を粘り強く中国に訴えていきたい。(共同通信・森保裕)

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