「忖度(そんたく)」という言葉を聞くたびに、肩でもたたいて慰めたくなる。辞書には「他人の心中を推し量ること」とある。相手の気持ちを忖度するのは悪くないのに、後ろめたさを含んだ言葉になってしまった◆きっかけは周知の通り森友・加計学園問題。官僚の虚偽答弁は安倍晋三・前首相への忖度が疑われ、厳しい批判を受けた。最近では菅義偉首相の長男が勤務する放送事業会社「東北新社」による総務省幹部接待で、首相への忖度が指摘された◆2代続けての首相に絡む問題が忖度の意味をゆがめているが、辞書編集者の神永曉さんは自著に〈配慮をする意味まで含んだ語をどうしても使いたいのなら、「斟酌(しんしゃく)」の方がしっくりするのではないか〉と書いている◆斟も酌も水や酒などを酌む意味で、元々は酒を酌み交わすことを表した。それが先方の事情や心の状態を酌み取る意味に変化したという。一連の問題は、神永さんがいうように斟酌の方がしっくりする◆コロナに目を奪われているうち、足早に去っていくニュースがある。東北新社は先日、報告書を公表した。会食は5年間で54件。長男は22件に出席していたが、首相とのつながりを示唆した働きかけはなかったという。酒席の空気は斟酌されなかったのか。釈然としないまま、勝手に悪者にされた罪なき言葉の心中を忖度している。(知) 

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