2015年4月7日に脳出血で倒れた後、佐賀市の佐賀県医療センター好生館から小城市内の病院に転院してリハビリを続けていた「私」は、国が定めた入院期限により、退院日が9月23日に決まった。それから、日常生活を意識した訓練がさらに本格化した。

 入浴はその一つ。機械浴を“卒業”し、大浴場でシャワーを浴びるようにしていた私は次に、ユニットバスを使う練習を始めた。担当OT(作業療法士)の指導を受け、いすに座って浴槽をまたぐなど動き方を習った。今もかなり緊張するが、自宅では一人で入浴できている。OTに感謝である。

 日常生活を意識したリハビリは、ほかにも始めていた。例えば着替え。脱健着患(だっけんちゃっかん)。「脱ぐ時は健常側から、着る時は麻痺(まひ)側から」。覚えておいて損はない。一人で着替えができることも大切だ。ただ、健康な時は2分ほどで済んだ着替えが5分はかかる。ボタンの掛け違いなど赤面しそうな失敗は今も多い。

 退院日が迫る一方、リハビリは順調とはいえなかった。特に、「クローヌス」と呼ばれる症状がひどくなっていた。聞き慣れない言葉のクローヌスは、麻痺足を伸ばそうとすると筋肉が緊張し貧乏揺すりのように足先が震えること。初めてこの症状が出た時、脳の指令が神経に伝わろうとする兆候と聞いた。「良くなっているのかも」とうれしく思ったが、徐々に“天敵”になる。何しろ、出現回数が多い。この頃は杖(つえ)をついて歩けるようになっていたが、5歩進んではクローヌスが出て立ち止まることの繰り返しで先に進めない。担当OTからは「多くの患者が通る道。自分で制御できるようになって」と励まされた。

 そう言われても簡単ではない。見かねた担当医から「ボトックスをやってみようか」と提案された。「しわ取り」など美容でよく耳にするボトックスは筋肉を軟らかくする注射療法。筋肉は使わないと硬くなる。もし神経の回路がつながっても、筋肉が硬ければ動きにくい。そのための療法だ。

 担当PT(理学療法士)からは「補装具をつけてみましょう」と言われた。好生館では膝上の長下肢を借りたが、今回は膝下までの短下肢タイプを購入した。

 十分な自信はついていなかったが、先に進むしかない。9月23日、私は約5カ月間お世話になった病院を無事に退院した。ここからは「独り立ち」が求められる。喜びと「覚悟」はセットでやってくる。(佐賀新聞社・論説委員)

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