どん底に大地あり-。長崎市で被爆し、病床から平和を訴え続けた永井隆博士(1908~51年)は、この言葉に「どん底の生活からこそ幸福は生み出され、育て上げられていく」という思いを込めた◆永井博士とは生きた時代も置かれた状況も違いすぎる。安易にどん底などと口にするのははばかられるが、大相撲夏場所で決定戦の末に優勝を飾った照ノ富士にはしっくりきそうな言葉である◆大関に復帰した最初の場所での優勝は、長い大相撲の歴史の中でも初の快挙という。コロナ禍での観客制限、横綱不在など厳しい中で、千秋楽まで場所を引っ張った。「よくぞここまで」と、テレビ桟敷から復活劇に拍手を送ったファンも多いのではないか◆大相撲の番付は10段階に分かれている。照ノ富士は2017年に大関から陥落。けがと病気に苦しみ、19年には序二段まで落ちた。関脇、小結、前頭、十両、幕下、三段目、その下が序二段である。「上から2番目」から「下から2番目」へと、まさにどん底。大関だったプライドが邪魔をして、引退の道を選んでいても不思議ではない◆賜杯を手にした姿は、どん底で見つけた大地に立っているようにも思えた。いよいよ次は最高位への挑戦だが、さらに力を増していくのではないか。諦めなかった人だけに訪れる幸福をエネルギーにして。(知)

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