エッセイストの阿川佐和子さんが以前、子どもの頃の思い出を語っていた。父は作家の阿川弘之さん(1920~2015年)。佐和子さんはふすま一枚隔てた部屋で執筆している父を気遣い、息を潜めるようにして遊んでいたという◆すると突然、ふすまが開き、頭ごなしに叱られた。「気配がうるさい」。騒いでいたのならともかく、気配がうるさいとは…。作家の感性とはそういうものかと思わないでもないが、子どもにすれば何とも理不尽な言われようである◆現代の優しいパパは阿川さんのように怒鳴りはしないが、気配を感じるのは同じのようだ。〈テレワーク 九九の呼吸が 漏れ聞こえ〉-。オリックスが募った「働くパパママ川柳」の大賞作品。何となく気になり、仕事に集中できない様子がうかがえる。一方で、テレワークは「時間の余裕ができる」など歓迎する声もあり、一概に評価するのは難しい◆テレワーク時の仕事の生産性は出勤時に比べ84・1%に低下したという調査結果(パーソル総合研究所)の記事もあった。電子化が遅れている組織などは、生産性の低下傾向が強かったという◆この原稿も自宅で書き始めたが、なかなか進まずに結局は出社した。「それは仕事の環境じゃなくて力量の問題じゃないの?」。ときに、気づかないふりをしたくなる気配もある。(知)

下記のボタンを押すと、AIが読み上げる有明抄を聞くことができます。

このエントリーをはてなブックマークに追加