フランスの俳優アラン・ドロンを一躍有名にした映画「太陽がいっぱい」で、彼が演じた貧乏な青年は大金持ちの友人の財産や恋人を盗もうと筆跡をひたすら練習してまねをし、パスポート偽造に成功する。こんなことをしても他人になりすますのは難しいのに、こちらはあまりにも安易すぎる◆愛知県の大村秀章知事のリコール(解職請求)運動を巡る署名偽造事件で、愛知県警がリコール運動の事務局長ら4人を逮捕した。アルバイトを雇い、有権者の氏名を署名簿に書き写させた疑いだ◆多くの人がきっと、自分の氏名は比較的上手に書ける。書く機会が多いからだ。親の思いがこもった名前を勝手に使われては困る。署名は時に、大きな力となる。サッカーのJ1サガン鳥栖も経営危機の際、チーム存続を願う5万人の署名があったから誕生した。小さな声を形にする。署名とは本来そういうものだろう◆NHKの朝ドラ「おかえりモネ」で伊達政宗の「五常訓(ごじょうくん)」が出てくる。その一つが「智(ち)に過ぐればうそをつく」。頭がよすぎる人は平気でうそをつくことがある、という意味。一つのうそを正当化するためにうそを重ねる悪循環は「太陽がいっぱい」にも共通する◆ましてや、民主主義の根幹を揺るがすような偽造。金釘流(かなくぎりゅう)の筆者が言うのもなんだが、全ての自署は美しく、重みがある。(義)

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