九州電力が活用策を検討している大正期に建築された舞鶴荘=唐津市北城内

 炭鉱王、高取伊好(これよし)(1850~1927年)が大正時代に建てた国重要文化財「旧高取邸」の南向かいに、同時期に伊好が娘婿の住居として建てた建築物がある。九州電力が保養所に活用していた舞鶴荘で、福島第1原発事故後に経営合理化策で売却を検討したものの、保存を望む地元の意向を尊重して方針を撤回した建物である。取り壊されずに済んだことで4月下旬には一般公開して活用策を探る試みが始まった。歳月とともに消えゆく近代建築の保存・活用策を探る事例にしたい。

 うっそうとした庭やツタに覆われた塀が九電玄海原子力総合事務所の社員による清掃活動でよみがえった。4月のイベントでは建物東側をテラスとして飲食店などが出店し、市民たちを迎えた。「一度見てみたかった」という来訪者たちが重厚な建物の一部を見学し、100年近くたつ建築物の歴史的価値を感じていた。

 舞鶴荘は1922(大正11)年ごろに建てられ、純和風のデザインと洋館を併せ持つ近代和風建築の木造2階建て、広い庭園もある。九電が購入して1962(昭和37)年から保養所となった。2014年に閉鎖して売却先を探したが、建物の高さが10メートル以下に制限される第1種低層住居専用地域にあるため、中高層の集合住宅などは建設できず、買い手がつかなかった。地元からは歴史的景観への影響を懸念し、建物の保存を求める声が寄せられ、方針転換につながったという背景がある。

 九電は2018年7月に玄海原子力総合事務所を新設し、原発に対する住民への理解促進を強化している。売却による「取り壊し」というネガティブなイメージを避けたいという意識もあり、撤回は地域とのコミュニケーションを重視する方針に合致していた。

 今回は2日間で来場者が2200人に上り、集客力の高さを示した。「立派な建物で、残っていて良かった」という声も聞かれ、市民にとって文化的価値を持つ存在になっていると言える。九電は来場者アンケートを基に活用策の具体化を図り、登録有形文化財への指定を視野に入れる。唐津城や旧高取邸をはじめ歴史を感じるエリアである。維持管理の費用負担を議論し、観光資源として一体的に活用する手だてを見いだしたい。

 市内には民間の近代建築がまだまだ存在する。それらが直面するのは、保存への理解と経費の負担をどうするかという課題である。私有財産ゆえに行政も手をこまねいている現状がある。老朽化は確実に進んでおり、多くの人が知る間もなく、近代建築が消えていく現象は加速しかねない。すべてを残すことはもちろん困難である。市民の文化資源、まちづくりの核として保存のあり方を論議することが急務である。(辻村圭介)

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