新型コロナウイルスワクチンの高齢者への接種が本格化した。だが予約手続きが混乱し、注射を担う医療従事者確保も難航。7月末までに全高齢者に打ち終えるという政府目標は暗雲が漂う。最適な手順は地域により違うだろうが、政府はもっと積極的、具体的に市区町村を支援するべきだ。

 医療従事者約480万人の3割超が2回必要な接種のうち1回目も受けられていない。65歳以上の高齢者約3600万人に至っては接種開始から1カ月たっても、少なくとも1回打った人がまだ2%以下。日本は人口当たりの接種回数が経済協力開発機構(OECD)加盟37カ国中で最下位にとどまっている。

 ワクチン国産化ができなかったことに端を発するこの遅れの挽回には、やっと供給が本格化したワクチンを最大限効率的に接種につなげる必要があるが、現時点で厳しい評価をせざるを得ない。

 10日からの1週間に約390自治体が高齢者接種開始の見込みだが、NTT東日本など通信各社は接種予約で通信量が急増したとして自治体向けの電話発信を制限した。システム障害などがあり、インターネット手続きも各地で混乱。市役所の特設予約会場や個別接種を担う診療所などにも予約を求める高齢者の行列ができた。

 重症化リスクが高い高齢者が密集するような状況を生んだのは本末転倒だ。公平性確保を重視した「予約方式」はそもそも必須なのか。例えば、地域の高齢者を年齢などで分類して、高リスク者優先で接種時間と場所を市町村が当初から指定し、都合が合わない人だけ予約方式にするなどのやり方をもっと検討しても良かったのではないか。

 愛知県西尾市が、薬局大手スギ薬局を経営する「スギホールディングス」から圧力を受け、会長夫妻の予約を優先的に確保していた問題も明らかになった。不公平な対応をした西尾市と、要求した同社側が非難されるのは当然だ。ワクチン接種を整然と進めるためにも政府、自治体は、このようなルール違反が横行しないよう厳しく目を光らせてほしい。

 菅義偉首相は4月下旬、全高齢者へのワクチン接種を7月末までに終える目標を唐突に表明。それには「1日100万回」というハイペースが必要になる。一方で、ワクチン供給は国、接種作業は市区町村といった役割分担をしたことで、困難な接種実務の差配を政府が市区町村に丸投げし無理を強いる形になった。

 首相は86%の市区町村が7月末までに完了する見込みと胸を張るが、違和感がある。政府が急がせてもなお14%が困難としている現状を首相は深刻に受け止めるべきだ。

 国際オリンピック委員会(IOC)は東京五輪・パラリンピックの各国選手団にワクチンの無償提供を決めた。菅首相の仲介で実現し日本の選手、監督ら計2500人程度も対象だ。国民の命も守りきれない危機的状況下、ワクチン、医療従事者を優先配分する五輪の開幕が2カ月後に迫る。

 だが首相は国会でも「選手が安心して参加できるようにし、同時に国民の命と健康を守っていく」と繰り返すのみだ。コロナ対策と五輪はもはや両立困難では、というのが多くの国民の率直な疑問ではないか。それに首相がまともに答えない態度では国民の心はますます五輪から離れかねない。

(共同通信・古口健二)

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