「サカズキノ國」連載20回目は文筆家の白洲信哉さんを迎え、連載筆者の勝見充男さん、村多正俊さんとのスペシャル鼎談(ていだん)です。神奈川県・鎌倉にある旧小林秀雄邸、通称「山の上の家」で斑(まだら)唐津談義に花を咲かせます。(構成・村多正俊)

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 新聞掲載ver.

名護屋に最先端

斑唐津の盃と片口

 村多 今日は全部、斑唐津です。(白洲さんが片口からぐい呑みにお酒を注ぐと…)

 勝見 わ! 信哉さんの注ぎ方! ぞんざいな(笑)

 白洲 片口(白洲氏所蔵 斑唐津片口)の気軽さってのは片手で持てるところかな。

 村多 これ(白洲氏所蔵 斑唐津筒盃)の容量はどんなもんでしょう? 八勺ぐらい、大きいですね。

 白洲 大きさ、ってのは僕の場合、大事なんです。このぐい呑(の)みは手のひらと指がぴったり合うんだよね。

 村多 以前、何かの本で読みましたが、必ず自分の呑み口を決めてらっしゃると。

 勝見 呑み口、ってのは僕も決めている。とんがっているところとか。

 村多 やはり呑み口は大事なんですね(笑)。で…信哉さんはなんで唐津が好きになったんですか。

 白洲 酒呑(の)みであればやっぱり唐津でしょ。

 勝見 美濃は表面的な形であったりする…。

 村多 前回(2020年2月)の鼎談時に(古美術評論家の)青柳(恵介)さんは「美濃はデザインに走る」と言われていました。唐津はデザインに走らない。

 白洲 1年後も10年後も飽きない、っていうのが重要で。美濃は飽きるんです。

 勝見 唐津って、飽きがこない。

 白洲 飽きがこない焼き物、唐津。だから好きなんです。

 勝見 僕は唐津の人間が好き。

 村多 唐津の作家さんは研究熱心な方が多いですね。

 白洲 あえて言うとね、研究は大事なんだけど。器って使ってナンボだし。僕は純粋に作ってもらいたい。400年持っていられるものを作ってみて! って感じ。それと…唐津の人が良い、ってのは風土が良いってこと。文禄慶長、当時の唐津はある意味、日本の首都だったんだよね。政府が動くと文化が付いてくるから。さまざまな文化人があそこに集った。桃山時代という日本史上、最もエネルギーが高まった時代があの、小さなエリアに集約されているんです。それで…斑は特殊なものだと思うんです。頑張ろうという感じがする。

 村多 信哉さんがおっしゃったように無地唐津とかと比較してみると違うんですよね。でも斑は当時の日本で市場受けしなかったから無くなっちゃった。

 白洲 唐津そのものの需要がなくなったんでしょ。

 村多 はい、唐津は伊万里へと、とって変わられた…けれどその過程で無地唐津の需要はあって大量に作られている。それと比較して斑は少ないんです。

 勝見 受けなかったのかなぁ。

 白洲 需要と供給のバランスで言うと日本人のニーズは合わなかったのかもしれない。さまざまな理由があると思いますし。ただ、今では考えられないような、岸岳一帯の窯で毎日火の手が上がっていたこと…それってすごいと思うんです。

 村多 最先端のものが肥前名護屋に集まっていた。豊臣秀吉っていったらハンパない。

 白洲 権力者にみんな媚(こ)びるからね、名護屋に本陣があったわけですから。そういうものの空気感を僕は唐津に感じるんですよね。当時の唐津は日本の玄関口だった。言い換えれば最前線なわけ。そういう意識の中で焼き物が作られていた。

 勝見 それは僕もよく分かります。例えば桃山の人たちの花見って、3日3晩酔っ払って、そこで花に接しないと花に負けちゃうみたいな、そういう感性が今の人たちと全然違う。

 白洲 名護屋城をつくったと言ったって、能舞台も一緒につくるわけですよ。彼らにとってはそこがないと満たされない。城では醍醐の花見の小さい版を毎晩やっている。そんな場所は日本では唐津しかないんですよね。

小林秀雄旧蔵 斑唐津筒盃

唐津は“盃のチャンピオン

 村多 師匠はどうして唐津が好きになったんですか。

 勝見 憧れだったよね。徳利(とっくり)と盃(さかずき)の本を読みだして。それで斑で呑みたいな、と思って。それから傷だらけのものを買ったりしてここまで。酒器に関してはやっぱり斑…っていうか筒かな。ところでこの片口、前と印象が違うんだ。良い民芸臭がする。柳(やなぎ)宗悦(むねよし)さん(「民芸運動の父」と呼ばれる思想家)が見たら絶賛していたと思うよ。

 白洲 使いやすいもんですよ。

 勝見 これだけ傷があって邪魔にならない焼き物ってあんまりない。

 村多 結局のところ信哉さんにとって、斑唐津の盃って、どういうものなんですか。

 白洲 酒呑みにとって欠かせないアイテムだね。特にその祖父(文芸評論家の小林秀雄)の斑は僕の一つの基準というのか大事な先生なんで。

 村多 師匠にとっては。

 勝見 …やっぱり憧れ。盃に関しては骨董の神様が味方してくれたんだよね。斑の筒、その一点に出会ったっていうのはね。

 白洲 唐津は「盃のチャンピオン」。

 勝見 信哉さんねぇ、片手でその盃を持っている姿、すっごい似合っていますよ。小林秀雄さんと近くなってる…。白洲正子さんが言ってたじゃないですか。骨(こっ)董(とう)買ったからって自分のものにならないわよ、って。似合っていないと駄目だ、って。

 白洲 小林が最後まで使っていた斑唐津が1個遺った、というのは何かしら意味があるんだろうな。

 村多 似合ってます。小林さんもそうやって呑まれてたんだろうなぁ…この場所で。

 白洲 それはありがとう。もっと呑もうよ。一升瓶持ってこい!

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