佐賀県での聖火リレーの最終走者として、自身がデザインしたトーチで聖火皿に炎を移す吉岡徳仁さん=10日午後8時27分、佐賀市の県立博物館・美術館前広場(撮影・米倉義房)

 被災地の心の復興と平和への願いを込めた「桜の花」から立ち上る炎を、万感の思いで見つめた。佐賀県内の全20市町をつないだ東京五輪聖火リレー最終日の10日、フィナーレを飾ったのは、トーチをデザインした佐賀市出身のアーティスト吉岡徳仁さん(54)だった。東日本大震災の被災地でデザインの発想を得たトーチの灯が、コロナ禍で閉塞感にさいなまれる県民の心にぬくもりを与えた。

 2015年、被災地支援のため福島県を訪れ、小学生と一緒に桜の絵を描いた吉岡さん。子どもたちの力強い表現に心を打たれ「被災地の人たちが苦難から立ち上がる姿を世界に伝えたい」と、桜がモチーフのトーチ制作に取り組んだ。

 仮設住宅で使われたアルミサッシ廃材を再利用し、五輪をイメージした5枚の花弁が集まった形に仕上がった。年齢や性別、障害の有無、国籍などにかかわらず、さまざまなランナーが使えるように配慮されたトーチは、新型コロナウイルスの感染拡大による1年の延期を経て3月25日、福島県から各地を巡回。「桜が花開くように、希望の炎が日本全国を縦断し、人々の思いをつないでいきたい」。吉岡さんの熱い思いは、ふるさと佐賀をともに駆けた約180人のランナーや応援者の心にも刻まれた。

 2日間に及んだ歴史的イベントを締めくくる大役。桜のトーチを手に、柔らかな笑みを浮かべながらゴールへと向かった。ステージの聖火皿に火をともすと、感慨深げな表情を見せた。「みなさん大変な状況だが、日本は思いやりや助け合いの中で苦難を乗り越えてきた。この聖火が少しでも希望の光になれば」と吉岡さん。炎はコロナ禍の地域社会を照らす光のように、赤々とステージで燃えていた。(古川公弥)

このエントリーをはてなブックマークに追加