佐賀県庁の来賓室で1泊したという。1964(昭和39)年9月15日、“来賓”は東京五輪の聖火である。県公文書館に展示されている資料を見ていると、聖火がいかに慎重に、大事に扱われたかがうかがえて興味深かった◆聖火は長崎県から有田に入り、武雄、小城などを通って午後6時半ごろ、現在の市村記念体育館に到着。翌朝は盛大な出発式が開かれ、神埼、鳥栖、基山へとリレーして福岡県に引き継がれた◆展示されているモノクロ写真からは、当時の熱狂が伝わる。小旗を振る大勢の観衆、鼓笛隊の子どもたち、稲穂が揺れる佐賀平野を駆けるランナー。敗戦からの復興を遂げ、高度経済成長へと進む高揚感に地方も包まれていたのだろう◆その時から約57年、新型コロナの感染拡大で中止する自治体もある中、佐賀県の聖火リレーは9、10の両日に実施される。2日間で、177人のランナーが県内20市町すべてをつなぐ。五輪開催には否定的な意見も多く、どうなるかは不透明だが、そうした空気感を含めて記憶に刻まれるのではないか◆聖火がともるトーチは佐賀市出身の吉岡徳仁さんのデザインである。桜を表現したピンクゴールドの5枚の花びら。集まって声援を送るわけにはいかないが、日差しに輝く“来賓”の姿を想像すると、どこかで共有する時間が持てればと思う。(知)

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