憲法改正に関する国民投票法の改正案が今国会で成立する見通しとなった。立憲民主党の修正案を自民党が全面的に受け入れ、衆院憲法審査会で修正の上、賛成多数で可決した。

 改正案は、有権者の利便性を高めるために公選法で既に実施されている規定を取り込む内容だ。これで国民投票法の課題が全て解決したわけではない。

 法案修正では、国民投票運動での政党のテレビCMやインターネット広告、運動に使える資金などの規制について「3年をめどに法制上の措置、その他の措置を講じる」と付則に盛り込んだ。

 これらの課題を放置したまま改憲の国民投票を実施すれば混乱を招く恐れが大きい。運動の公正・公平さが疑われれば、投票結果の正当性が問われる事態になろう。

 国家の基本である憲法の改正でこうした混乱を招いてはならない。改憲論議が本格化して国民投票が視野に入る前に、先送りした課題には必ず結論を出しておくべきだ。確実に議論を進めるよう各党に求めたい。

 菅義偉首相は3日の憲法記念日に改憲派の会合に寄せたビデオメッセージで「改憲の議論を進める最初の一歩」とするために改正案の成立を目指すと強調した。しかし、今回の改正で改憲論議を加速させる条件が整ったと考えるのは筋違いだ。

 2018年に国会に提出された改正案は、駅や商業施設でも投票できる「共通投票所」の導入など7項目。有権者の利便性の向上が目的で、成立させるのは当然だろう。

 一方、テレビCMの規制の在り方は07年の法制定時からの課題だ。現行法では、政党や団体が放送枠を購入するスポットCMは投票日の14日前以降に限って「賛成」「反対」の働き掛けができないことになっている。それ以前は自由で、禁止期間中も自らの意見を述べるCMは許されている。

 国民投票法は、改憲の是非に関して国民が自由闊達かったつに議論するため、原則的に自由な運動を認めるという考え方に基づいている。公正・公平さを担保するための必要最小限の規制にとどめているのはそのためだ。

 しかし、資金量の豊富な政党などが大量のCMを流したり、有名タレントにCMの形で意見表明を行わせたりすれば、投票行動に大きな影響を与える可能性がある。資金量の多寡が投票結果を左右する事態は、公正・公平さの観点から放置できない。

 一方で、CM規制は表現の自由を縛るとの指摘もある。英国などでは国民運動ができる団体を限定し、使える資金量に上限を設けている。こうした知恵を絞るべきだ。

 ネットの発達は法制定時には想定されなかった課題だ。ネットの広告費は既にテレビの広告費を上回っている。相手ごとに内容を変える「ターゲティング広告」やフェイクニュースを使って投票行動を誘導する手法は、欧州連合(EU)離脱を決めた英国の国民投票や米大統領選などで問題視されている。

 他にも課題は残る。法制定時の付帯決議は、国民投票が成立する「最低投票率制度」の導入の是非を検討するとしたが、議論は置き去りのままだ。改憲の重要な手続きである国民投票制度の整備は改憲の前提条件だ。憲法本体の議論と並行し、投票法の不断の見直しに取り組むよう求めたい。(共同通信・川上高志)

このエントリーをはてなブックマークに追加