佐賀市の佐賀県医療センター好生館に運ばれてから11日後の2015年4月18日、「私」は小城市内の病院に転院した。

 脳出血で倒れた場合、急性期病院から一般病院に転院するまで通常は1カ月ほどかかるという。それがわずか10日で済んだのは、血腫除去の手術が効果的だったからだろう。

 転院先の病院では、一般病棟の個室に2日いた後、「回復期病棟」へ。ここは4人部屋だった。

 回復期病棟に移るとリハビリの連続だった。365日、リハビリに休みはない。回復期病棟のOT(作業療法士)、PT(理学療法士)、ST(言語聴覚士)のスタッフは土日、祝日も交代で勤務している。

 この病院のリハビリスタッフは若い。私の担当はいずれも20代。「鬼」と呼ばれるような厳しい指導のPTもいると聞いたが、実際はみんな優しかった。臨床実習中の学生も多く、みんなにお世話になった。

 リハビリは、日常動作の自立を目標にした。

 麻痺まひの状態を説明するのは難しい。麻痺には筋肉が緊張する痙性麻痺と筋肉がだらんとする弛緩性麻痺があり、私の場合は痙性麻痺。関節は曲げやすいが、伸ばすのが難しい。指や手首、足首、ひざなど脳から遠い場所ほど、指令が届きにくい気がする。というより、動かし方を忘れたという感じだ。実際、左手は今も軽くグーを握ったままで、指は開かない。

 本格的にリハビリを始めて気づいたことがある。好生館のリハビリでできた動作は、転院後もできた。逆に、好生館のリハビリでできなかった動作は、今もできない。一度駄目になった脳細胞は残念ながら再生しないという。神経の通り道である錐体路すいたいろが損傷を受けた部分も再生しないのだろう。脳血管障害に伴う麻痺の回復が難しいといわれる理由だ。

 ただ、見舞いに来てくれた友人が脳卒中の元患者の話を紹介してくれた。「人って不思議で、右脳がダメージを受けた時は左脳がカバーしようとする。だから諦めちゃ駄目」と。人間の脳は未解明の部分が多い。麻痺側が全く動かないからといって諦めるのではなく、刺激を与え、少しでも動かそうと努める。いつか回路がつながる奇跡が起きるかもしれない。そういう意味で、リハビリにゴールはない。(佐賀新聞社・論説委員)

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