クラスターに関連する店名を公表する和歌山県のホームページ

 新型コロナウイルスが猛威を振るう中、憲法が保障する営業の自由やプライバシー権と感染防止対策のはざまで、自治体が難しいバランスを迫られている。感染者と接触した人を徹底的に洗い出し、拡大を防ぐ和歌山県の対策は「和歌山モデル」と呼ばれ、海外でも注目された。しかし飲食店への影響は大きく、誹謗(ひぼう)中傷も。住民は「感染者が特定されてしまう」と息苦しさを吐露する。

 「居酒屋〇〇に来店した人は最寄りの保健所まで連絡を」。コロナ関連情報を提供する県のホームページには、クラスター(感染者集団)発生に関連する店名が所在地とともに掲載される。県の担当者は「注意喚起することで、感染者をあぶり出し、封じ込める狙いがある」と話す。

 だが、店側への影響は大きい。県内のある飲食店は公表後、ぱたりと客足が途絶えた。経営者は「大金をかけて対策のための設備を整えたのに…。感染拡大防止を考えると、店名公表はした方がいい。ただ補償などのアフターケアはきちんとしてほしい」と訴える。

 店に出入りしていた客は誹謗中傷の被害に遭った。特定されて個人情報がインターネットに書き込まれ、職場が嫌がらせを受けるなどした。県内に住むある女性は「人口が少ないので感染者が誰か分かってしまう。自分の関係先の公表は避けたいので、感染には気を付けている」と明かす。

 昨年11月に氏名が公表された和歌山市議の永野裕久さん(47)は、会議が感染源とみられるが「『大阪に遊びに行ったんだろう』という事実ではない書き込みがあった」と振り返る。ただ、非難だけではなく、励ましの言葉もあったという。

 和歌山県では昨年2月、国内初の院内感染が発生。病院名の公表に踏み切って病院関係者600人を検査し、早期の安全宣言にこぎ着けた実績がある。新潟大の鈴木正朝教授(情報法)は「一義的には感染症対策が大事で、プライバシーの配慮はその次になってくる」と考える。一方で公表された店などについては「補償で守る必要がある。差別があるなら、ひどい事例は刑事事件化も検討すべきだ」とした。

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