休業や時短営業の要請に応じ、看板の明かりが消えた商業ビル=佐賀市の愛敬通り(昨年4月22日撮影)

コロナ禍と憲法について解説する井上亜紀教授=佐賀市の佐賀大学本庄キャンパス

 日本国憲法は3日、施行74年を迎えた。新型コロナウイルスの感染が長期化する中、3度目の緊急事態宣言が東京などに発令され、昨年と同じく憲法が保障する基本的人権が一部制約される中での憲法記念日である。佐賀県内でもコロナ禍の休業要請や解雇・雇い止めで生活の糧を奪われた人は多い。憲法の理念は守られているのか。佐賀大学経済学部の井上亜紀教授(54)=憲法学=に広がりつつある私権制限などについて聞いた。(宮﨑勝)

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◆公共の福祉とは

 最初の緊急事態宣言が全国に出されたのは昨年4月。佐賀県内でも飲食店や遊興施設、道の駅などに休業要請が出された。その後も感染拡大の波が襲うたび、時短営業などが求められ、外出自粛が呼び掛けられている。いわば憲法22条が保障する「営業の自由」「移動の自由」が侵害されている格好だ。22条には「公共の福祉に反しない限り」と条件付きの自由であることが記されている。感染拡大防止は公共の福祉なのか。

 ■井上教授 感染拡大を止めるほうが公共の福祉のように受け止められているが、そうではない。権利と権利が衝突する際、調整するのが公共の福祉。今回は、営業の自由と25条が保障する生存権が衝突している。憲法は公共の福祉の言葉のもと、公平に調整するように求めている。

 政府は感染を抑えることを優先しているが、「今回はこちらを制限します」というときは、採用する手段の根拠を十分に説明することが憲法上求められる。あとは私たちがどう評価するかということになる。

 

◆休業要請と補償

 休業や時短営業に応じた店舗には、国や県などが支援金や協力金を支給してきた。29条は財産権を侵してはならないとする一方、私有財産は正当な補償のもと、これを公共のために用いることができるとしている。今年2月、新型コロナ特措法が改正され、休業要請に応じた事業者への必要な財政上の措置を講じる規定が盛り込まれた。ただ、損失に見合う「補償」の明記は見送られている。

 ■井上教授 29条により「要請と補償はセットだ」といわれるが、それには公共のために用いることに加え、条文にはないものの、特別な犠牲があることが要件とされている。後者は特定の人が受忍限度を超えるような制限を受けた時という意味。補償を受けるのは「ある程度限定される」という解釈が通説になっている。

 昨年、私は学生たちに「29条で考えれば、補償の対象にならないのではないか」と話した。その時は多くの店舗が制限されたが、夏を過ぎるころには落ち着く一時的なものと考えていた。だが、最近は飲食店など対象が絞られ、29条の補償を考えなければならないようになってきたと思う。

 

◆コロナ禍の不自由

 憲法や権利を意識して生活している人はほとんどいないと思うが、一方で新型コロナが広がって不自由さを感じている人は多い。

 ■井上教授 「憲法の問題が出てこない状態が一番理想的な状態」といわれるが、コロナによって「権利が制限されている」と感じる状況が生まれている。最後に政府の方針に従うとしても、ここで少し議論することが、どこかで政府の行き過ぎの歯止めになる。

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