バイデン米大統領の初の施政方針演説は、「米国は再び動きだした」と述べ、4年間のトランプ時代と新型コロナウイルス禍の停滞から米国が抜け出し復活の道を歩みだしたと宣言した。大型の経済・インフラ対策、教育・医療の充実、国際主義への復帰などで、強さを取り戻すとうたっており、指導力回復への期待が高まる。

 就任から100日間で新型コロナのワクチン接種が2億2千万回以上という想定外に速いスピードで進み、米国には明るいムードが戻ってきた。

 感染者数や死者数は減っており、ワクチン接種完了者は屋外ではマスク着用不要とする行動指針も発表された。今年は高成長を記録すると予想されている。最初の関門だったコロナ対策は科学重視で業績をあげている。

 演説はコロナ後の課題である「米国の再建」に多くを費やした。雇用創出と格差の是正が焦点だ。コロナ禍の経済対策1兆9千億ドルに続いてインフラ投資や教育、育児支援など4兆ドル(約430兆円)を新たに投じると宣言した。ハイテク技術やグリーンエネルギー分野でも米国の競争力を高める方針だ。

 法人税や富裕層の増税で財源を生み出し、格差の是正を実現する狙いだ。バイデン氏は「米国をつくったのは中間層だ」と中間層優遇の税制など経済政策を目指す。また「米国製品を買おう」と呼び掛け保護主義的な政策を続ける方針だ。

 演説から浮かび上がるのは、1980年代のレーガン時代に始まった新自由主義型の「小さい政府」の時代から「大きな政府」への約40年ぶりの転換である。バイデン氏は30年代の大恐慌時代に就任し次々と公共事業を始めて「大きな政府」政策を導入したルーズベルト大統領を引き合いに出した。

 バイデン氏はこれらの政策で米国の立て直しを実現し「中国との21世紀の競争を勝ち抜く」と宣言した。強力な産業政策で国力を急速に高める中国に対して、教育が劣化し格差が拡大する米国は勝てない、という危機感の表れだ。

 だが、バイデン氏を取り巻く政治状況は厳しい。国民全体での支持率は50%台を維持するものの、野党共和党支持層の間では10%前後と低い。議会は民主党優位だが差は小さい。ルーズベルト時代は、与党民主党が圧倒的に優位で政権は法を自在に成立させた。

 共和党は増税に徹底的に反対する姿勢を表明した。米政界では政権発足から100日間は政争を控える慣習があるが、今後は容赦ない戦いに突入する。トランプ氏を支持する過激な勢力も残る。さまざまな政策が実現するかどうかは、バイデン氏の指導力次第である。

 注目すべきは中国の習近平国家主席を「専制主義者」と呼び、民主主義は専制主義に負けられないと述べて米中対立を理念の戦いと位置づけた点だ。両国が理念を持ち出して戦うとなると、妥協の余地は小さい。バイデン氏はインド太平洋地域での強固な軍事力の展開も強調した。米中対立は激しさを増しそうだ。

 日本は両国が対話の窓口を維持し気候問題など協力できる分野を拡大し、危機管理のメカニズムを機能させるよう促すべきだ。米国の信頼できる同盟国であるならば、危機を回避し東アジアの平和と安定を実現するよう働きかけるのは責務だ。(共同通信・杉田弘毅)

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