集団予防接種を原因とするB型肝炎を20年以上前に発症し、その後再発した患者に国への賠償請求権があるかどうかが争われた訴訟の上告審判決で、最高裁は賠償請求権が自動的に消滅する除斥期間20年の起算点は発症時ではなく「再発時」とする判断を示した。その上で除斥期間経過を理由に請求を退けた二審福岡高裁判決を破棄した。

 併せて賠償額算定のため審理を高裁に差し戻した。4人の裁判官全員一致の意見。判決は「どのような場合に再発するか医学的に解明されておらず、最初の時点で後の発症による損害を求めるのは不可能」とし「最初の発症と質的に異なる損害が生じた」と指摘。提訴時には除斥期間が過ぎていないと結論付けた。

 再発による新たな損害の発生を認め、除斥期間の起算点を再発時とすることにより、時間の壁を乗り越えた形だ。全国B型肝炎訴訟弁護団によると、除斥期間の起算点を巡り再発患者111人が札幌、仙台、東京、静岡、名古屋、大阪など15地裁と広島、福岡の2高裁で係争中。今後の審理に影響を及ぼすだろう。

 また判決の補足意見は国に原告ら関係者と協議し、救済の責務を果たすよう促している。国は各地の訴訟で争う姿勢を転換するとともに、除斥期間の経過を理由に給付金を減額する特別措置法による救済の枠組みを見直すなど全面解決に向け手を尽くす必要がある。

 今回の訴訟を起こしたのは福岡県の男性2人で、いずれも乳幼児期の集団予防接種を原因とする慢性肝炎患者。1人は1987年に発症し、治療によって、いったん症状は治まったものの、2007年に再発。もう1人は91年に発症し、04年に再発した。提訴はそれぞれ08年と12年だった。

 戦後間もなく始まった集団予防接種を巡っては、国が40年近く注射器の使い回しを放置したためB型肝炎ウイルスに感染したとして各地で患者らの提訴が相次いだ。最高裁は06年判決で国の責任を認め、その後施行された特措法に基づき救済の枠組みが整えられた。

 慢性肝炎の場合、発症から提訴までの期間が20年以内であれば、1250万円の給付金が支給される。ただし20年を超えるケースだと、300万~150万円になる。判決後の協議の中で、国側は除斥期間による線引きを強く主張し、盛り込まれた。給付金の支出が巨額になるのを危惧したとみられ、一方、弁護団は早期解決のため応じた。

 訴訟を起こして和解すれば、国から給付金を受け取れる仕組みになっているが、91年に発症した男性に示された和解提案は300万円だった。

 一審福岡地裁は17年判決で除斥期間の起算点を再発時とし、国に1250万円の支払いを命じたが、二審福岡高裁は19年に最初の発症時を起算点とする原告逆転敗訴の判決を言い渡していた。

 除斥期間は法律上の権利を使わないまま過ぎると自動的に消滅する期間。時効と異なり、原則、中断や停止は認められない。薬害や公害を巡る訴訟で争点となり、原告側に大きな壁となってきた。昨年施行の改正民法で停止することもある時効と明記されたが、さかのぼって適用されない。

 今回の判決からは、何の落ち度もないのに深刻な被害を受けた人たちを救済しようという思いが読み取れ、国はこれを重く受け止めるべきだ。(堤秀司)

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