菅義偉首相の指示で、子ども関連政策の司令塔となる「こども庁」創設の検討が政府、自民党で始まった。文部科学、厚生労働両省、内閣府などにまたがる機能、組織を集中させる再編構想だ。

 少子化の深刻な日本では出産、子育て、教育の政策に国民の期待が高い。その強化は歓迎したい。しかし新組織でどんな政策を打ち出すのか。中身の議論の前に「縦割り打破」をアピールしやすい器づくりから入ったのは違和感が否めない。次期衆院選の自民党公約の目玉づくりを狙う一過性の組織いじりでは困る。

 こども庁構想は自民党有志が4月初めに提言。首相が「極めて重く受け止め対応したい」と応じ、政府与党を挙げた検討へ急展開した。ただ提言は「子ども担当相新設、司令塔機能明確化」を除けば、子育て関連支出増額、妊娠・出産時の費用助成拡充、虐待や自殺の防止対策強化など従来施策の延長で新味はない。

 政府内の検討案も、こども庁の所管業務を巡り「文科省が所管する小・中学校の義務教育の移管」「文科省の幼稚園、厚労省の保育所、内閣府の認定こども園の所管を一元化」といった組織再編論に終始している。

 野党も2005年に旧民主党が「子ども家庭省」設置を主張。立憲民主党も旧国民民主党との合流前、19年の参院選公約に子ども家庭省を明記した。野党の政策を取り込んで争点をぼかす「抱きつき戦術」の色合いも濃い。安倍前政権が国政選挙のたびに掲げた「女性が輝く社会」「1億総活躍社会」「全世代型社会保障」などに続く看板掛け替えの感もある。

 少子化対策の焦眉の課題は、待機児童解消を筆頭とする子育て支援策だ。政府は06年、幼稚園と保育所の機能を併せ持つ「認定こども園」をスタート。だが所管が文科、厚労両省に分かれ、補助金受給手続きの煩雑さで普及が進まず、15年度から所管を内閣府に一元化するなど「縦割り」の修正を迫られてきた。

 19年秋からは3~5歳児の幼稚園、認可保育所を無償化した。保育ニーズが高まり、政府は20年度末としてきた待機児童ゼロ目標を達成できず、新たに4年間で14万人分の保育の受け皿整備に着手。一方、共働きが増えたため、保育時間が短い幼稚園のニーズはこの間に6万6千人分減る。こども庁で「幼保一元化」が実現すれば、このようなミスマッチの解消に前進があるかもしれない。

 だが、幼稚園、小・中学校の所管をこども庁に移すなら文科省解体に近い大手術だ。中学と高校の間で府省所管を区切れば、新たな縦割りになる。府省に屋上屋を架し、結果的に行政肥大化を招いて、財政支出をいたずらに増やす懸念も強い。

 そして何より求められるのは、有効な少子化の歯止め策を見いだすことだ。ただ少子化の原因は若いカップルが共働きしながら結婚、出産、子育てをしづらい社会そのものだ。即効性のあるカンフル剤は期待薄だろう。

 働く人の4割が低賃金で不安定な非正規雇用、進まない男性の育児休業取得、相変わらずの長時間労働、ひとり親家庭で特に深刻な子どもの貧困―。少子化対策は、これら経済社会全般にわたる問題がテーマであり、政府全体で取り組む必要があるはずだ。新たな器に集中させるのとは逆に、広がりのある取り組み態勢がむしろふさわしい。(共同通信・古口健二)

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