酒どころの佐賀に生まれ育ちながら、悲しいかな下戸である。若い頃は「ご返杯」に苦しめられたが、酒の席もスマートになり、無理強いされることはなくなった。今は気兼ねせず、ウーロン茶で楽しく参加している◆そんな身ながら、この人の歌を聴くと、無性に飲めない酒を飲みたくなる。48歳で急逝、没後20年を迎えた歌手の河島英五さん(1952-2001年)である◆大ヒットした『酒と泪(なみだ)と男と女』をはじめ、『野風増(のふうぞ)』や『時代おくれ』と、代表作は歌い出しから酒が登場する。酒場のカウンターで、独り静かに酒を飲む。日々の喜怒哀楽をのみ込んで、ひたすら愚直に、不器用に生きる姿が哀愁を帯びたメロディーの中に浮かんでくる◆河島さんの長女でタレントのあみるさんの発案で、命日の16日から京都市で創作ノートなどを展示した企画展が開かれている。ノートには推敲すいこうの跡があり、伝える言葉を研ぎ澄ませていた様子がうかがえるという◆〈♪忘れてしまいたい事や/どうしようもない寂しさに/包まれた時に男は/酒を飲むのでしょう〉。思うようにいかず、つらかった夜、この歌に慰められた人も多いのではないか。春宵(しゅんしょう)、佐賀の銘酒を味わい、しのんでみてはいかがだろう。コロナ感染には十分に気をつけて〈♪目立たぬように/はしゃがぬように〉。(知)

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