衆院の憲法審査会が今の通常国会で初めて開かれ、憲法改正に関する国民投票法の改正案の質疑と自由討議が行われた。衆院憲法審査会での審議は昨年12月以来だ。

 2018年に国会に提出された国民投票法の改正案は採決を巡って与野党の対立が続いており、自民党などが改めて早期採決を求めたのに対して、立憲民主党などは反対し、結論を持ち越した。

 国家の根幹である憲法の改正を問う手続きである国民投票に関する議論はもちろん重要だ。しかし、審査会の本来の役割は憲法本体の議論だろう。

 憲法が掲げる基本理念に照らして、今の社会状況で何が課題かを洗い出し、課題の解決には法律の制定などで対処すべきなのか、憲法の改正まで必要なのかを審議し、国会対応を主導していくことだ。特に新型コロナウイルス感染症によって、憲法に絡む多くの課題があることが明らかになっている。感染再拡大の「第4波」の機に、課題に向き合う憲法論議に取り組むよう求めたい。

 衆院議員の任期は今年10月までであり、今の議員による改憲原案の国会発議はあり得ない。改憲発議を意識せず、現下の課題を自由闊達(かったつ)に議論する好機でもある。各党がコロナ禍に対処する憲法観を示すことは、衆院選に向けて有権者の判断材料の一つにもなろう。

 国民投票法の改正案は、駅や商業施設でも投票ができる「共通投票所」の導入などの7項目。自民は有権者の利便性を高める内容だと主張するが、立民は改正案の問題点を指摘するとともに、投票結果に影響を与えかねないテレビやインターネットCMの規制などの議論を採決前に行うよう求め、対立している。

 自民、立民両党は昨年12月の幹事長会談で「通常国会で何らかの結論を得る」と合意したが、「結論」の解釈が異なり、議論は平行線のままだ。

 ただ、有権者の利益になる改正は早期に成立させるべきだろう。一方で、資金力の差が表れるCMやネットを使った選挙への介入は外国でも問題になっており、放置できない。CM規制などの課題について結論を得る時期を決めた上で改正案を成立させるなど与野党で知恵を絞るべきだ。

 コロナ禍は憲法が絡む重要な課題を突きつけている。解雇や雇い止めなどで厳しい生活を強いられている人々は憲法25条の「最低限度の生活」を保障されているのか。飲食店などへの営業自粛要請は営業の自由の侵害に当たらないか。一方で、さらに強制力の強い措置が憲法上可能なのか、その場合の補償はどうあるべきかを議論するのが憲法審査会の役割だろう。

 自民党には、新型コロナ対処のため、首相に権限を集中する「緊急事態条項」を憲法に新設すべきだとの声がある。しかし、地方自治体にこそ権限を委ねるべきだとの意見もある。国と地方の関係を改めて議論すべきだ。学校の休校と教育を受ける権利の関係、国会でオンライン審議が可能かなども憲法上の課題だ。

 自民党は、9条への自衛隊明記や教育の充実など4項目の改憲条文案をまとめている。だが、これらが議論を急ぐべき課題なのか。再考を求めたい。9条明記案などを自ら提起した安倍晋三前首相とは異なり、菅義偉首相は国会での議論を求める姿勢にとどめている。静かな環境で課題に取り組む議論を期待したい。(共同通信・川上高志)

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