高齢者への新型コロナウイルスワクチンの接種がようやく始まった。世界中で流行を繰り返し、日本では「第4波」を迎えた新型コロナとの困難な戦いで、初めて形勢を逆転させ得る切り札だ。しかし日本では、先行した医療者の接種において地域、医療機関の間で遅速が生じ、不公平感が生まれている。全員に行き渡るとの信頼に基づくべき接種事業で、そうした格差は許されない。配分体制の再構築と情報発信の改善が急務だ。

 日本で接種に使われているファイザー社製のワクチンは、臨床試験や先行した各国の実績から死亡率や重症化率、さらには感染自体を防ぐ効果が既に実証されている。重症化、死亡のリスクが高い約3600万人の高齢者と、それに続く持病のある人への接種が進めば、感染者、死者が大幅に減ることは疑いがない。

 ところが肝心のワクチン供給量が足りない。高齢者はおろか、先行した医療者への接種さえ滞っているありさまだ。

 全国約480万人の医療者向け接種は、2回目までの配布が完了するのが5月の連休明けになる。現状では、ワクチンが最初に届けられる「基本型接種施設」の医療機関でも、まだ1回目の接種が終わっていない。当然、そこから配られるはずの小さな病院やクリニックでは、医療者が1度も接種を受けないまま診察に当たっている。医療現場の国への不信感は膨らむばかりだ。

 高齢者への接種でも開始時期が二転三転した。当初の3月下旬との目標が4月になり、結局中旬までずれ込んだ。本格接種は実態として5月に、必要な全量の配分は6月になる見込みだ。対象者の数に比べて極めて少ない供給量にもかかわらず、国が接種開始に固執した経緯には、政権による実績づくりではないかとの疑問が湧いてしまう。

 分配スケジュールの混乱により、自治体の準備作業はそのつど見直しを余儀なくされた。多くの自治体が、国が求める65歳以上一律という建前を外れて年齢や属性で細かい優先度を付けたのも、実は少ない供給量をどう生かすかに苦心した表れである。

 情報発信の課題もある。厚生労働省と都道府県の間で詳細に詰めたはずの段取りが、閣僚の発言一つで揺らぎ、自治体の担当者を混乱させることが散見された。確実な情報を一元的に取りまとめ、決まったルートで発信できるよう、意思統一を図ってもらいたい。

 「自分はいつ頃、接種を受けられるのか」という住民の疑問は早急に解消されなければならない。東京都八王子市で見られたような予約段階での混乱に、嫌気が差している高齢者もいるだろう。接種するかどうか迷っている人をいっそうためらわせ、ひいては接種率の低下につながることが懸念される。

 世界では既に人口の5%がワクチン接種を終えた。イスラエル61%、英国47%、米国35%に対し、日本ではいまだに1%にも届かない。日本の接種事業の遅れはもはや隠しようもないところだ。

 後れを取ったのは、ひとえに国産化ができず、輸入に頼らざるを得なかったからだ。自前で開発、生産する能力を育ててこなかったツケは大きい。研究開発と生産体制の強化にすぐにでも着手し、少なくとも次の変異株、新たな感染症の発生には間に合わせたい。(共同通信・由藤庸二郎)

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