元陸上競技選手で、400メートルハードルの日本記録保持者・為末大さんは“走る哲学者”とも呼ばれる。語る言葉は輝かしい実績と相まって人をひきつけるが、子どもたちに向けた著書『生き抜くチカラ』(日本図書センター)には大人の心にも響く人生哲学が織り込まれている◆身長170センチで、陸上選手としては恵まれていなかった。だからこそ、自分の身体や特性を生かすため、戦略を考え抜き、世界のトップに躍り出た。著書には、その経験からつかんだ50のメッセージが並んでいる◆その中の一つに〈「努力」は「夢中」に勝てない〉という言葉がある。為末さんは「本当に強いのは、苦しい努力をがんばって根気よく続ける人よりも、そのことがおもしろくて、つい夢中になっていたという人」と述べている◆努力が大切なのは言うまでもないが、つらく苦しいイメージがつきまとう。でも、本当に好きなことなら、努力しているなんて感じずに、時間も疲れも忘れて没頭する。「夢中」は無意識のうちに「努力」を飛び越えていき、強さにつながっていくのだろう◆始業式、入学式も終わり、新年度が本格的に動き出す。子どもたちに限らず、春は幾つになっても新しいことを始めたいという思いに駆られる季節。スポーツでも、趣味でも、仕事でも、何か「夢中」に出会えればいい。(知)

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