今回のコロナ禍は、私たちの社会に「文化は不要不急か」という根源的な問いを突きつけた。「第4波」が懸念され、いまだに外出を控える日々が続くが、1年余りの自粛生活を経た今、改めて冒頭の問いかけを考えてみたい。

 周囲を見渡してみると、そこここに新たな動きが芽吹いてきたのではないだろうか。

 3月末、佐賀県庁の県民ホールにコンサート用のグランドピアノがお目見えした。誰もが自由に触れて弾くことができるピアノで、プロジェクトは「ピアノの駅」と名付けられている。ピアノそのものを、人と人が交流する「駅」にしようという試みである。

 佐賀市の市村記念体育館に眠っていたピアノの有効活用で、オープニングでは佐賀市のピアニスト大坪健人さんが、ショパンやモーツァルトを軽やかに披露した。生の演奏に多くの人が足を止め、心から楽しんでいた。

 県芸術文化協会が募集した2020年度の「県文学賞」の作品集がまとまったが、ここでも今の時代性をうかがわせる作品が目立つ。

 「コロナ禍の最前線にて天使にも戦士にもなる白衣の背(そびら)」(筒井孝徳さん、一般の部短歌一席)は、医療従事者へ向けた信頼と感謝のまなざしだ。

 ジュニア(中学生)部門の随筆一席に選ばれた吉村円花さんの「価値ある当たり前」は、音楽部の演奏会が中止になったエピソード。「私にとっての日常である、学校生活が、休校によって壊れてしまった」と率直につづった。

 ジュニア(中学生)部門の小説一席を取った増田晴奈さんの「僕たちの音」は、中学3年生の合唱コンクールを舞台に、バイオリニストの「僕」と、ピアニストの「彼女」との物語。同じく二席の太田結菜さんの「君のいないユニゾン」も、ユーフォニウムのソロパートをめぐって練習に打ち込む青春小説だ。

 読み進めていくと、その根底には、何かを奪われる喪失感と、それを乗り越えようとするもがきがひそんでいると思えてくる。これらの作品は、今の時代だから生まれたとは言えないか。目の前の不安やストレスに、どうつきあっていくか。その一つの答えが「書く」という行為なのだろう。

 「書く」に対する「読む」行為もまた、重みを増したようだ。県立図書館を例にとると、来館者数は昨年4月から今年2月までで8割止まりと落ち込んだ。しかし、その半面、インターネットで公開しているデータベースのアクセスは跳ね上がった。歴史資料データベースは前年同期比120%、ウェブ版古文書入門が147%、自然デジタル大百科事典に至っては180%と一気に伸びている。

 「書くこと」「読むこと」を通じて私たちは、足元を見つめ直し、この苦境をいかに乗り越え、人生を豊かにしていくか、と考えを深めていく。文化は不要不急どころか、不透明な時代の指針になりうる。

 歴史をひもとけば、中世ヨーロッパではペストが猛威を振るった。この間、内面的な思索が深まった結果、人間性を解放し、個性を重視するルネサンス(文芸復興)へとつながったとも指摘されている。今を生きる私たちもまた、新たなルネサンスの前夜にいるのだと信じたい。

(古賀史生)

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