競泳の池江璃花子選手が日本選手権の100メートルバタフライで優勝し、東京五輪のメドレーリレー選考基準を満たして代表選手に決まった。闘病生活を続ける人たちにも勇気を届けたレースだった。

 2年前に白血病と診断され、10カ月に及ぶ入院生活を送り、体重は15キロ以上も落ちた。たくましかった筋肉をすっかり失い、病状の安定と回復を待ってトレーニングを開始したものの、当初は東京五輪はとても間に合わないので、2024年パリ五輪を目指したいと話していた。

 そこから一歩一歩、筋肉を作り上げるトレーニングと、泳ぎの技術を元通りにする練習を続けてきた。ようやくレースにたどり着いたのは昨年8月だ。日本選手権への出場を明言してから、まだ2カ月もたっていない。

 それでも、出場するからには、いい位置を狙いたいので目標を決めるとも語っていた。東京五輪の出場権を勝ち取るため、入念な準備を進めたことがうかがえる。今回の優勝は諦めない気持ちが輝いた瞬間だった。

 16歳で出場したリオデジャネイロ五輪で7種目に出場し、その2年後のジャカルタ・アジア大会では6冠に輝いた。

 日本を代表する選手として精いっぱいの力を尽くそうとの決意は、明確に定まっていたようだ。トップアスリートの本能のような、レースでは誰にも負けたくないとの気持ちもあったのだろう。

 レース後、国際通信社を含む海外のメディアは「白血病を克服し逆境をはねのけた」「驚くべき回復の速さ」「快挙であり、素晴らしい希望のメッセージ」と伝えた。

 町の市民からは「勇気をもらった」「あまりにもドラマチックで言葉がない」「諦めないことの意味をかみしめた」との声が聞かれた。

 新型コロナウイルスの感染がやまない中、多くの人が感染への危機感を募らせる。緊張感は解けない。仕事を失った人、収入減に直面した人もいる。市民は希望を見いだしにくい状況が続いている。

 大都市圏などに緊急事態宣言が発令され、それが解除されたと思ったら、再び全国的に感染がじわじわと広がってきた。

 うっとうしい毎日になり、晴れやかな笑顔が広がる機会が少なくなった状況だからこそ、池江選手の日本チャンピオンへの復帰と五輪出場資格獲得は、久しぶりの明るいニュースとなった。

 共同通信が3月後半に実施した全国電話世論調査で、今年夏の東京五輪・パラリンピックの開催の是非を問う質問に対して、開催すべきだとの回答は23・2%、中止すべきだは39・8%だった。

 その中で、聖火リレーが福島県から始まった。沿道で見守った人から「外出も難しいけれど、目の前で見て、五輪が開催できるといいなと思った」との声も聞かれる。

 しかし、このような受け止め方を、沿道に出ることを思いとどまった人たちが共有するのは難しいのではないか。今回の池江選手の五輪代表決定によって、一気に五輪開催機運が広がってほしいとの期待もあるだろうが、それはやや早計だ。

 多くの市民が池江選手に拍手を送ったのは、五輪の代表を決めたこと以上に、あそこまでか弱くやせ細った彼女がたくましくよみがえり、強豪に競り勝った、スポーツの持つドラマ性に魅了されたからだろう。(共同通信・竹内浩)

このエントリーをはてなブックマークに追加