医療従事者向けの先行接種に続き、65歳以上を対象とする新型コロナウイルスのワクチン接種が12日の週以降、佐賀県内市町でも順次始まる。各市町は国から届くワクチンの供給量をみながら、臨機応変な対応が求められる。国からの供給予定などが日々変わり、市町が準備に忙殺される中で、交通弱者や障害者ら接種を受けるのが難しい少数者は置き去りにされてはいないだろうか。接種希望者が受けられない事態が生じないよう、入念に対応に当たってほしい。

 市町ごとの接種が始まるのを前に、鳥栖市では3月議会で議員から質問や要望が出された。同市は、市内40の医療機関で個別接種を予定しており、接種の順番は国の方針に沿って(1)65歳以上(2)基礎疾患がある人、高齢者施設などで働いている人、60~64歳の人(3)16~59歳の人と想定。妊婦は、接種のメリットとデメリットを医師と相談のうえで決めてもらうとの方針を説明した。

 高齢者の接種について、ある議員は「免許返納も進む中、接種地まで1人で行けない人も多いのではないか」と指摘。市は「個別接種なので送迎補助は考えていない」としつつも「(ワクチンが多く届いて)個別接種だけで対応できない場合は集団接種も視野に入れている。その際は送迎も考慮に入れたい」との考えを示した。交通の便が悪い北海道の町では、高齢者の移動手段を確保するためタクシーで送迎する所もあるようだ。県内の山間部などでも、交通手段を理由に接種が難しいと考えている高齢者はいないだろうか。地域の事情を基に点検してほしい。

 ある議員は、国が自治体に求めた「障害に応じた合理的配慮」を強く要望した。電話相談窓口を設ける際は、聴覚障害者のためにファクスやメールでも相談ができるようにし、接種会場では聴覚障害者向けにコミュニケーションボードを設け、視覚障害者向けに音声案内を行うという配慮だ。ワクチン接種では、正確な情報提供はもちろん、副反応への迅速な対応も不可欠になる。障害者らと迅速・確実に情報がやりとりできる準備は必須といえるだろう。

 ワクチン接種の進め方は、高齢者施設から始めたり、集団接種から始めたり、市町ごとに異なり、住民に十分な周知が必要になる。市報や町報、ホームページ、会員制交流サイト(SNS)など、さまざまな手段を使って分かりやすく情報を届けてほしい。接種が始まれば、予約当日、体調不良などで急に受けられないケースも出てくるだろう。限られたワクチンを無駄にしないため、鳥栖市はキャンセル時は必ず連絡を呼び掛けているが、こうした緊急時の対応も事前周知しておきたい。

 新型コロナを抑え込むには、ワクチンは一人でも多く接種することが望ましいが、副反応を心配する人もいる。今回の接種は努力義務とされ、個人の判断に委ねられている。鳥栖市の橋本康志市長は、接種の大前提の一つとして「接種していない人に対して、差別やいじめは避けなければいけない」とも強調した。接種を受けなかった人が地域で特定され、後ろ指を指される事態があってはならない。市町は接種の準備・対応と同時に、打たない選択をした住民への配慮を怠らないでほしい。(樋渡光憲)

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