岐阜県の庄川(しょうがわ)の上流に、1961年に完成した「御母衣(みぼろ)ダム」がある。建設の際、樹齢400年といわれる巨桜「エドヒガン」が移植された。「荘川(しょうかわ)桜」として知られる◆この話が入った作家水上勉さんの『櫻守(さくらもり)』によると移植の際、根を掘り起こすだけで35日かかったという。樹齢400年の桜の移植は前代未聞の難事業だったが、古木の生命力は強かった。枯死せず、今も咲き誇る。『櫻守』には主人公が愛した滋賀県の「清水(しょうず)の桜」も紹介されている。いつの日か見に行けたらと思う◆荘川桜のように命を受け継いできたものは県内にもある。吉野ヶ里町の「小川内(おがわち)の杉」はその一つ。樹齢500年以上。地元住民の思いを受けて2016年、五ケ山ダムの水没予定地から移植された◆先日、現地を訪ねた。30年ほど前、小川内地区の古老を取材した際、その男性に言われて帰りに立ち寄ったことを思い出す。移植から5年。三つの株が根元でつながった巨木はしっかり根付いていた。親子のように寄り添い、見る人にパワーを与えてくれる◆気がつけば、桜の季節が瞬く間に過ぎた。こちらの都合と見頃がなかなか合わないのも逆に、人が桜にひきつけられる理由だろう。五ケ山ダム周辺には桜も植樹されていた。いつか桜の名所になるかもしれない。桜の季節にまた、力をもらいに行こう。(義)

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