この人は老いないのではないか。そんな気さえする女優の吉永小百合さんが対談で語った。どんなときに、もう若くないと感じたかと問われ、「涙が真っすぐに流れないで、横に走ったときです」。歌人の河野裕子さん(1946-2010年)が『横に走る涙』と題するエッセーの中で紹介している◆河野さんは女優でなければできない表現と感心しながら「女性がうまく齢をとるということは、どういうことなのだろう。よけいな媚(こび)や甘えや身ぶりが抜けて、その人の人柄が洗い出されたように見えてくることなのかもしれない」と書いている◆吉永さんの真っすぐに流れる涙は美しいだろうが、横に走る涙も見てみたい。その皺(しわ)に、洗い出されたように人柄がにじむなら、人の心を動かすのに欠かせない魅力となる◆新聞の1面コラムは、顔の皺に例えられたりする。紙面の主役はニュースであり、コラムはないならないで事足りる。でも、皺が人生の深みを表すように、優れたコラムは紙面の味わいになる。堅苦しいニュースばかりでは窮屈で、コラムはひと息つける休憩所でもある◆きょうから小欄を担当する。今はただ、蛇行する涙しか浮かばずに心もとない。月に一度、週に一度でも少しの味わいを醸すような皺を刻めればと思う。毎度は求めない、読者の寛容にもすがりつつ。(知) 

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