人気グルメ漫画「美味(おい)しんぼ」は陶芸家で美食家の海原雄山と、子で新聞記者の山岡士郎の料理対決が見もの◆ある時、2人は「ご飯とみそ汁」で勝負する。雄山は、料理は素人の窯たき職人に「いつか私に作ってくれたご飯とみそ汁を再現せよ」と指示する。士郎は新潟産コシヒカリなど厳選素材を使い、炊き方も完ぺき。だが、負けてしまう◆窯たき職人は、黒いお盆の上に米粒を広げて一粒ずつ箸でつまみ、大きすぎる粒や小さすぎる粒、欠けていたり濁っていたりする粒をえり分けた。お盆の上に残った、大きさのそろった米粒が炊きむらをなくし、決定的な味の差を生んだ。みそ汁も、具材のシジミの大きさをそろえるといった一手間で格別のおいしさになった。貧しかった窯たき職人が豪華な食材を用意できない代わりに、時間を尽くしたというお話だ◆「美食を芸術の域まで高める条件は人の心を感動させること。人の心を感動させるのは人の心だけ。材料や技術だけでは駄目だ」という雄山の一喝が心に残った。もてなしの極意だろう◆人事異動で歓送迎会の季節。だが、昨年に続き、コロナ禍で別れの会食もままならない。それでもお世話になった人に何かしたいと思う人はいるだろう。豪華なものは難しくても、少しの時間、相手を思おう。そのひとときに、人は心を動かされる。(義)

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