アニメ映画「千と千尋の神隠し」で、不思議の町に迷い込んだ主人公の父親が店先の料理をかき込む場面がある。若い作画スタッフはその動きが描けなかった。ご飯をワーッと大急ぎで口に運んだ経験がないからという◆いま「動き」を描けない若手が増えている、とプロデューサーの鈴木敏夫さんが嘆いていた。たとえば風呂に入るにも、むかしは人が体を動かし、木を集め火を着けなければならなかった。現代はボタンを押すだけ。肉体が動く経験や記憶は薄れ、描かれる登場人物は汗ひとつかかなくなった◆子どものころ胸躍らせたテレビ漫画は「動き」にあふれていた。「ルパン三世」「侍ジャイアンツ」「未来少年コナン」…。番組の始まりや終わりに流れるスタッフ一覧には、大塚康生さんの名前があった。その訃報に、なつかしい「漫画映画」の楽しさを思い返す◆14歳で終戦を迎え、進駐軍の軍用車のスケッチに熱中した。カメラも本も満足にない時代、自分で描くことしか、その魅力を手元にとどめる方法がなかったからである。あまりに描写が精緻で、諜報部にスケッチ帳を没収されたという◆「いくらデジタル化が進んだところで、自分が感動していないものや関心の乏しいものは結局のところ上手には表せない」。日本をアニメ大国にしたのは、こんな職人たちの汗だろう。(桑)

下記のボタンを押すと、AIが読み上げる有明抄を聞くことができます。

このエントリーをはてなブックマークに追加