人気絶頂期に解散した昭和のアイドル「キャンディーズ」のラストシングルは「微笑(ほほえみ)がえし」。「♪春一番が掃除したてのサッシの窓にほこりの渦を踊らせてます」。旅立ちと別れを引っ越しの様子にたとえながら、それまでのヒット曲名を織り交ぜた作詞家阿木燿子(あぎ・ようこ)さんの歌詞が好きだった。今の時季にぴったりの曲だ◆今春もきっと、進学や就職などで新たなステージに進む人がいる。引っ越し準備を始めた人も多いだろう。新生活に夢が膨らむ一方で、住み慣れた町や家を離れるのは寂しいもの。懐かしい品々に荷造りの手が止まり、見送る側もせつなくなる。特に、緊急事態宣言下の首都圏への転居は不安をぬぐえないだろう◆徳川家康が江戸に幕府を築いて約400年。この間、東京は「夢をかなえる町」であり続けてきたと思う◆ただ、人類は産業革命に伴う鉄道の発明で「距離の征服」に成功し、インターネットによる情報革命で「距離をなくす」ことに成功したといわれる。夢をかなえるために東京に出る必要性は薄れた気がする◆とはいえ、人との出会いは大きな財産となり、東京が備える魅力自体は薄れないだろう。卒業ソングの定番「旅立ちの日に」は「♪勇気を翼にこめて希望の風に乗り」の歌詞が心に残る。コロナ禍に限らず、夢に向かっての出発には勇気も求められる。(義)

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