どういうわけか、男は結婚すると自分でパンツを買わなくなる。ところが作家の村上春樹さんは、たまにデパートなどでまとめ買いをするのが好きだと、むかしエッセーに書いていた。タンスの引き出しに、きちんと折ってくるくる丸められたきれいなパンツがたくさん詰まっていると幸せを感じる、と◆そんな〈人生における小さくはあるが確固とした幸せ〉を、村上さんは「小確幸」と呼んでいる。おいしいものを食べたとき、お風呂にゆっくりつかったとき、布団にもぐって眠るとき…日々ささやかな幸せを感じる瞬間がある。小さくても確かな幸せを大切にしていれば、毎日を豊かに生きていける、ということなのだろう◆コロナ禍で迎える2度目の春。外に出れば、桜のつぼみがほころび始めている。冬の寒さに耐えて花開こうとする自然のいとなみは「小確幸」を教えてくれる。それは、先ばかりを見ないで、なんでもなく生きている「今」を愛することなのかもしれない◆「さが桜マラソン」がオンライン形式で始まった。めいめいが好きな時間に好きな場所で、2週間かけてゴールを目指す。走ることのよろこびを、あらためて見つめるひとときになる◆2年ぶりの大会である。近所で黙々と走る人とすれ違うたび、「あ、桜マラソン!」と想像してみるのもきっと小さな幸せだろう。(桑)

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