佐賀県内でも近年、DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉をよく聞くようになった。最新のデジタル技術を活用し、企業が組織やビジネスモデルを変革することを指すが、特筆すべきは地方の企業の経営革新に有益な部分が大きいと考えられていることだ。人手不足などの経営課題を克服し、自社を飛躍させる戦略的な取り組みとして推進したい。

 「全国の都道府県でDX推進のセンターを設けているのは佐賀だけ。この2年半で延べ約3700件の相談を受けた。コロナ禍でDXへの関心が高まっている」。県産業政策課DX・スタートアップ推進室の北村和人室長はこう力を込める。県は2018年10月、AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)などの先進技術を活用し、県内企業の生産性向上や新たなビジネス創出を支援する拠点として佐賀市に県産業スマート化センターを開設している。

 AIなどに詳しい社員を自社で育てるのが理想だが、手っ取り早いのはそうした技術に優れる企業と組むことだろう。センターでは相談を基に県内企業と国内外の企業をマッチングしている。目視に頼らないセンサーによる検品、クラウドによる情報共有…。ベテラン社員なら8割分かるが、若手は1割しか分からないといった職人的な仕事を全員がほぼ等しくこなせるようにするのにもDXは役に立つ。

 DXの成功事例としてよく目にするのは、ECサイトを構築して物品販売の仕組みを激変させた米アマゾンなどである。ただ、中小企業が手本にするにはあまりに規模が大きく、県は「身近な事例を知りたい」という声に応える実証事業にも取り組んでいる。AIの利活用などを見据えた新ビジネスの案件を県内企業から公募。1件当たり上限200万円の委託金を払う一方、その成果を公表してもらっている。採択数はこの3年で20件に及び、同じような課題を抱える同業他社の啓発にもつながっているようだ。

 県は本年度、DX推進に携わる人材養成にも着手した。AI開発などで使用頻度が高いプログラミング言語を学べる講座の受講を呼び掛けたところ、100人の募集に対して700人を超す応募があった。選抜された県内企業の勤務者や転職希望者らが4カ月間の学習に励んだが、現状への危機感があり、厳しい経済環境を生き抜く力になることを理解している人が多いということなのだろう。

 この1年、新型コロナウイルスの感染拡大により、県内企業は苦境に直面した。対面での商談は行えず、集客型イベントが中止を余儀なくされる一方、その代替としてオンラインを活用した事業やテレワークなどが一気に広がった。デジタル技術への関心は高く、県は新年度、県内企業のDX導入の裾野を広げるため、事業強化に取り組む考えだ。

 県DX・スタートアップ推進室の北村室長は「DXは地方に向いている」と強調する。AIはデータの集積があって力を発揮するが、「データは都会のおしゃれなビルの中にあるのでなく、中小企業の工場など“現場”にある。そして何度も検証を重ねる必要もある」と語る。DXを推進し、経営革新を目指す県内企業が増えることを期待したい。(杉原孝幸)

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