東京電力福島第1原発事故からの10年間、エネルギーを取り巻く国内外の状況は大きく変わった。太陽光や風力発電などの再生可能エネルギーが急拡大する一方、高コストの原発は多くの国で停滞が顕著だ。

 悲惨な事故を経験した日本の原子力が抱える多くの課題は未解決のままで、脱原発を求める世論は根強い。

 温室効果ガス排出のない「脱炭素社会」を目指したエネルギー政策の議論が始まった今こそ、世界の現実を見つめ、脱原発に歩み出す時だ。

 国際再生可能エネルギー機関(IRENA)によれば、2019年の太陽光発電のコストは10年に比べて82%と大幅に低下。陸上風力もこの間に39%、洋上風力は29%下がっている。この結果、各国で開発が拡大、それがさらなる低コスト化につながるという好循環が起こっている。

 一方で、事故前から上昇傾向にあった原子力のコストは原発事故後に必要となった安全対策によってさらに膨らみ、競争力を失った。

 事故前に着工したフランスやフィンランドの大型原発は当初の予定から大幅に遅れた今も運転開始に至っておらず、建設費は膨らむ一方だ。

 原子力ビジネスが低調となる中、東芝は関連の原子力部門が抱えた巨額の赤字が原因で一時、企業存続の危機に立たされた。日立製作所も英国での建設計画から撤退、ベトナム政府は原発建設を中止するなど日本政府が進めた原発輸出計画はことごとく頓挫した。

 国内を見てもさまざまなトラブルなどから原発の再稼働は進んでいない。安全対策費用はかさみ、裁判所の判決や仮処分決定などもあって事業のリスクは高まる一方だ。事故を起こした原子炉の廃炉も進んでいない。

 関西電力の裏金問題や東京電力社員によるIDの不正使用、故障した地震計の放置など不祥事も後を絶たない。

 原因企業である東電の裁判外紛争解決手続き(ADR)による和解案拒否も増えており、東電が事故の被害者に真摯(しんし)に向き合っていると考える被災者は少ない。

 事故時の避難対策を地方自治体に丸投げし「原子力規制委員会が安全と認めたものは再稼働する」との立場をとり続ける政府が、原子力の信頼回復に積極的に取り組んできたとも言えないだろう。

 にもかかわらず政府は50年の温室効果ガス排出ゼロ目標実現のために原子力を活用し続ける姿勢だ。だが、コストが高く、信頼性の低い原発が効率的な排出削減にどれだけ貢献できるかについて、データに基づいた議論がなされているとは言い難い。巨大事故のリスクを抱え、処分の見通しのない放射性廃棄物を出し続ける原発に安易に依存し続けることは許されない。

 そもそも原子力利用のために不可欠な市民の信頼回復はまったく進んでいない。多くの世論調査で脱原発を求める声がこの10年間、過半を占め続けているのは当然だ。

 日本において世界の現実とはかけ離れた意思決定がなされてきた理由は、政策決定が、既得権益と過去のしがらみに縛られた一部の関係者だけの議論に任されてきた点にある。政策を根本的に変革し、市民の負託に応えるエネルギー政策実現のためには、現在の議論の手法も抜本的に変えなければならない。(共同通信・井田徹治)

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