むかしワイシャツは「カッターシャツ」と言った。英語のようで実は、野球の試合で「勝ったー」と観客が喜ぶ姿から思いついたダジャレだとか。勝負に勝つ、商売に勝つ…そんな縁起をかついだ商品名だった。こうしたネーミングは〈隠された欲望を、それと知らずとぎすましていく、一つの知恵の形でもある〉。評論家、多田道太郎さんが述べている◆こたつの上にも、そんな知恵が転がっている。「温州ミカン」は中国の名高い産地、温州に由来する。ただ、原産地は鹿児島で、江戸時代初めにたまたま見つかった品種という。おいしいミカン産地にあやかりたい、先人の願いが名前からほの見える◆きのう、新しい県産ミカン「にじゅうまる」が初めて店頭に並んだ。味も香りも食感もいい。すべてが二重丸、太鼓判というわけである。かつて期待を集めながら失速したサガマンダリンの教訓を生かし、20年がかりで開発したという。幾重にも思いが重なったブランド名である◆暗い冬の日、こたつの上のミカンは丸いあかりのように見える。絵本作家おーなり由子さんが「みかん灯」と呼んでいた。うまいネーミングである。期待の新品種が生産者に希望を照らすあかりになるといい◆1個800円から1000円。うーむ。蛍光灯のような「みかん灯」が、わが家にもともる日を夢見て。(桑)

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