「桃太郎」も「一寸法師」も、昔話に登場するのは子どものいない、つましい老夫婦である。古代・中世は結婚して家族をつくることのできる階層は限られ、家督を継ぐ長男などを除けば、多くが晩婚か生涯独身だった。ある日、偶然授かった子どもの活躍で「めでたし、めでたし」と幸せになる物語は、庶民の「手の届かない憧れ」をくすぐったのだろう◆現代は、そんな憧れを抱くのがむずかしい時代のようである。昨年生まれた子どもは、速報値で約87万人と過去最少を更新した。婚姻数も53万組あまりで、終戦後の結婚ブームが一段落した昭和25(1950)年以来、70年ぶりの大幅減となった◆非正規雇用の増加など経済的な事情で「草食化」している若者が、コロナ禍で一段と将来に不安を抱えている。こんな不幸な時代には生まれてこないほうがいい、と考える「反出生主義」も広がりつつあるという。来年は出生数が80万人を割り込むとの試算もあり、そうなれば少子化のスピードは国の想定より10年も速まる◆両手、両足を伸ばして気持ちよさそうに眠る赤ちゃんは、見ているだけで幸せになる。俵万智さんは詠んでいる。〈バンザイの姿勢で眠りいる吾子(あこ)よ そうだバンザイ生まれてバンザイ〉。そんな「めでたし、めでたし」の社会を目指したい◆決して、お手上げではなく。(桑)

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