路地の入り口に建つお堂は、今にも崩れ落ちそうだった。JR佐賀駅前の丈高いビルに覆い隠されるように、朽ちるに任せてある。築80年。8年前の台風で天井は抜け落ちたまま。表戸は南京(なんきん)錠がかかっているものの、雨風と野良猫が中を荒らしていた。

 「ずっとお世話になってきたのに…」。その無残な姿を見るたび、地元自治会長の中島辰雄さん(82)は気持ちが沈む。建て替えを呼び掛けても、誰も賛同してくれない。「何とかせんと、今に罰が当たる」

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 江戸時代、往来の安全を祈願したことに由来するお堂は、城下町の目抜き通りだった地域の歴史を今に伝える。戦後しばらくは秋の彼岸に住民が集まって供養し、月2回は畳拭きまでしていた。

 しかし、地域の世話役たちが亡くなり、世代交代が進むにつれ、住民の関わりは薄れていった。一帯はマンションが増え、今は自治会約300世帯のうち、昔からの住民は数十世帯。お堂の存在さえ知らない人もいる。

 台風被害の後、自治会は佐賀市から、倒壊の危険があるお堂の撤去を求められている。お堂は50年ほど前に宗教法人化されていたが、関係者が亡くなった後、それまで会長の当て職として「相談役」を務めてきた自治会側が対処せざるを得なくなっている。

 お堂をひと回り小さくして再建すれば、費用は約400万円。中島さんは自治会の積立金で賄おうと、他の役員に相談したが、「民間信仰とはいえ、特定の宗教団体に自治会費を出すことは無理」と反対された。

 「私を『昔かたぎ』と批判する人もいるが、地域のシンボルとなるものは無理してでも残さんと」。再建をあきらめるつもりはない。中島さんの気持ちをせき立てるのは、昔のように住民同士が集う場を失うことへの危機感でもある。

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 信教の自由など微妙な問題もはらみつつ、地域が支えてきた「住民のよりどころ」となる場の維持は年々難しくなっている。

 佐賀市三瀬村の唐河神社で、築200年を超え傾いた拝殿の建て替えが持ち上がったのは4年前。過疎と高齢化が進む地域で、氏子は50戸ほど。わずか2戸しかない集落もあり、持ち回り当番で続けてきた祭りも一部簡素化せざるを得なくなっている。

 建て替えのため、1戸当たり20万円の負担を見込んで見積もりを取ると、費用は想定を上回る1250万円。氏子の中には経済的に負担が難しい世帯もある。新たに転入してきた世帯にも無理強いはできない。結局、氏子だけでは建設資金を賄いきれず、村外に転出した元住民たちに寄付を募ることになった。

 村内の親類を頼りに手紙や電話で呼び掛けると、約100人が協力してくれた。中には70万円を送ってくれた人もいる。「みんな小さいころ、ここでボール遊びや石取りしたり、夏休みにはラジオ体操にも通った。自分たちの代で朽ちさせるわけにはいかんでしょ」。建設実行委員の藤原雅秀さん(64)は言う。

 昨年秋の落成式には、真新しい拝殿に入りきれないほどの人が集まった。きっと複雑な思いもあったろう。それでも、こうしてまた、同じ場所で人と人とがつながり合えた。「もう、次の建て替えはしきらんやろね」。酒が入って、誰かがふとつぶやいた。

地域とのつながり 集う場、機会乏しく 

 佐賀市が昨年8月、6校区の住民を対象に行った「市民の幸福に関する調査」では、地域に憩いの場が「ほとんどない」「ない」と答えた人は35・0%。「たくさんある」「ある」の29・6%を上回った。

 地域行事・活動への参加に関しては「いつも」「時々」が62・8%に上ったものの、「ほとんどしない」「まったくしない」が、ほぼ3人に1人の31・7%。「行事を知らない」とした人も4・7%いた。住民同士が集う場も機会も乏しくなっているようだ。

 一方、近所づきあいでは、「いつもしている」「時々している」が82・2%。「まったくしない」「ほとんどしない」は10・2%だった。

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【たそがれの時代 さが幸福の肖像】

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