作家の山崎豊子さんの小説『沈まぬ太陽』に、ある会社監査役の座右の銘が出てくる。「私心を捨てる。保身を捨て使命に生きる。邪心を捨てる。野心を捨てる。慢心を捨てる」という「五シンの戒め」である。私たちの日常の仕事にも通じる心構えだ◆「国家公務員倫理カード」にも似ている。「公正な職務執行に当たる」「職務や地位を私的利益のために用いない」など5項目が記される◆菅義偉首相の長男が勤める企業による接待問題で、既に判明している総務省幹部4人以外に9人、計13人が接待を受けていたことが明らかになった。仕事上、人脈を広げていくことは大切で、会って語り合い、時に酒を酌み交わす効用を否定するものではないが、たとえ少額でも金銭が動けば公務員の倫理規定に違反する◆言うまでもなく、国家公務員は「国民全体の奉仕者」。多くの官僚に私心や邪心はなく、公正無私を自らに課していると思いたい。なのに13人も接待に応じたのは、菅首相の長男がいることへの配慮と思われても仕方ない面があるだろう◆組織の中に長くいると、世間の常識と組織の常識がずれ、誰を向いて仕事をしているのか分からなくなる時がくるかもしれない。そんな時、「五シンの戒め」を思い出したい。加えてもう一つ、「良心」を忘れないように。自戒を込めてそう思う。(義)

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